婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 アルのこと思い出すなんて……。
 顔を上げると、エディが困った顔を見せた。
「感激しすぎだ」
 エディが手を伸ばして、私の目じりをすっとなぞる。
 涙が出てたの?
「さぁ、食事にしよう」

「せっかく来てくれたんだけれど、2週間ほど領地を見て回る予定が入ってるんだ。そのあと10日ほど屋敷で仕事をしてから、今度は王都に2か月ほど行かなければならない」
 音を立てずに食事をすすめる。
 貴族らしい上品な食べ方だ。エディはその中でも特に所作が美しいって思う。
 私も、粗相のないよう、ゆっくり食事を口に運ぶ。
 ……エディの屋敷に努める人たちが私に注目してるので、非常に緊張するよっ。まぁ、食事の配膳一つとっても、出すタイミングや量。それに好みの味などを把握しないといけないから、見るのも仕事の内だし、しばらくは見られるのも私の役目なんだけどさ。
 アルと2人でライカさんのお店で気楽に食事をとっていたことが懐かしい。
 ……。ああ、また思い出しちゃった。
「リリィはゆっくりしてくれ。何もない領地だが、図書室にはそれなりに本がある。領都を見て回りたいというのであれば、トーマスに相談してくれればいい」
 それなりの本がある図書室?
 それは楽しみ。

 次の日、エディが領地の見回りに出掛け、私とメイシーはさっそく図書室へと足を運んだ。
「どんな本があるかしらね!」
 本は、一冊ずつ写本して作るため数が少ない。そのため、よほどの人気作品でもないかぎり、国中いきわたることは少ない。つまり、地域差が大きいっていうことで。
「うわー、読んだことのない本がいっぱい。メイシーどれから読もうか?」
「私は、このあたりの本から読みます。リリィーの好きそうな本があったら教えますね!」
 棚にいっぱいの本。
 半分くらいは歴史や政治など物語以外の本だったけれど、半分は物語だ。私の好きな恋愛小説と思われるタイトルも並んでいる。
 およそ3時間後。
 号泣するメイシーの姿があった。
「リリィー、これ、この本、すごく、すごくいいよぉー。うううっ、ああ、絶対読むべき、読んで!」
 そして、号泣する私。
「こっちの本もめちゃめちゃよかったよ、メイシー、次はこれ、読んでね」
 と、お互いの本を交換して読み始めたところ、侍女に呼ばれた。お昼ご飯だって。

■48

 昼食の後、また二人で図書室にこもる。