婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 その両脇にはずらりと使用人が並んでお出迎え。涙ぐんでいる人の姿も何人かいる。
 年を取ってはいるが、見覚えのある顔だ。昔エディと婚約していた時にお世話をしてくださった人たちだ。
 身の回りの世話は、連れてきたメイシー一人でいいと言って部屋に入って休む。
「はー、長旅だったぁ」
「そうですねー」
 ばたんとベッドの上に転がる。
「メイシーもまずはゆっくり休んで」
 すぐに使う着替えなど必要なものをクローゼットや化粧台に片づけるだけ片づけて、メイシーもソファに腰を下ろした。
 ベッドに寝ころびながら、ぼんやりと馬車から眺めたエディの領地を思い出す。
 のんびりした田舎だった。
 そう、人々がのんびりとしている。殺伐としている感じではないのだ。
 エディの屋敷のある領都の街も、規模こそ王都やウィッチ公爵領都に比べれば小さいものの、活気がある良い街だと思う。
 エディは間違いなく、よい領主なんだろう。
 私は、いい旦那様を選んだ。
 間違ってない。
「さぁ、そろそろ準備をいたしましょう。久しぶりにエディ様にお会いするのですから目いっぱい磨き上げないといけませんからね!」
 鏡に映った、着飾った少女。
 あなたの選択は間違ってないんだよ。
 なのに、なぜ、そんな寂しそうな顔をしているの?

「綺麗だ、リリィー」
 階段の下でエディが待っていてくれた。
 執筆屋の時とは違い、貴族らしい装いだ。明るいグレーを基調とした上着。銀の糸で襟元に刺繍が施してある。
 エディの端正な顔をさらに引き締まったものに見せている。
「エディも、素敵ね」
「ありがとう。貴族っぽいだろ?」
「ふふっ。そうね、私も今日は公爵令嬢っぽいでしょ?」
 エディの冗談に笑って答える。
 大丈夫だよね?笑えてるよね、私?
「いいや、とても公爵令嬢って感じじゃないな」
 エディが、ポケットから何かを取り出した。そのまま、手を伸ばして私の首筋にそれをつける。
 あ、ネックレス。視線を落とすと、きらきらと光を反射した金の鎖に緑の宝石が付いていた。
「ほら、エメラルドの精霊のできあがりだ」
 エメラルド……。
「リリィーの瞳の色だ」
 笑え。
 私、笑って、エディにお礼を言うのよ……。
「ありがと……う」
 私の瞳。エメラルドのようだと言われるよりも、新緑のようだと言われる方が嬉しいって……。