婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 それが、公爵家の一人娘として生まれた責任。
「エディは、公爵領を、公爵領に住む人々を守ってくださいますか?」
 エディはニヤリと自信ありげに笑った。
「もちろん。リリィーを取り巻くすべてのものを含めて、力の限り守っていくさ」
 幼い時から伯爵家当主として領地を守り発展させてきたエディの言葉だ。
 疑う余地はない。
「エディ……いいえ、エドワード・ディル・タズリー伯爵、あなたのプロポーズをお受けいたします」

■46

「メイシー、私、エディと婚約したわ」
「そうですか。って、え?ええー?!ど、ど、どういうことなの、リリィー!」
 そりゃ、驚くよね。うん。
「プロポーズされたので、それを受けたんだけど」
「そういうことを言ってるんじゃなくて、だって、リリィーは、アルの……」
 ハッと、メイシーが口をつぐむ。
 そうだよね。アルのことが好きだと言っていた翌日に、別の男性と婚約したとか言われても……。
「少し、大人になりました。公爵領をね、お父様のようにちゃんと治めてくれる人を選んだつもりなんだけど、どう思う?」
 メイシーの背筋がしゃんと伸びた。
「は……はい。リリィー様のお選びになったエディ様は立派な方です。ご婚約おめでとうございます」
 公爵令嬢としての決断に、メイシーは侍女として返答をくれた。
 友達としてはいろいろと思うことはあるけれど、公爵家に努める人間として、主人たる令嬢の決断を評価したという意味だよね?
「ってなわけで、王都に行ってお父様とお母様に報告した後、しばらくエディの領地で過ごそうかと思ってるんだけど。あ、それから、エディに代筆屋は代読屋とくっつければ維持できるって話なの。店のお引越しと、公認への引継ぎをしないと」
 それから、アルにも言わなくちゃ。

 久しぶりにアルの部屋に続く隠し通路の扉に手をかける。
 コトンと音を立ててクローゼットを押し開くんだけど、部屋にアルの姿はなかった。
 どこ?
 階段を下りて店を覗く。いない。
 店の裏の扉を開くと、アルが剣を振っている姿があった。
 汗が浮かんでいる。
 袖の無いシャツから伸びた腕には無駄のない筋肉がついてる。相変わらず、アルが剣をふるう姿はきれいだと思った。
 忘れない。
 アルの空色の瞳も。優しく笑う笑顔も。私を守ってくれたその腕も。
「あ、リリィー、いつからそこに?」