婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 貴族とは変なもので、既婚女性は少しくらい愛人を囲っていても、激しく非難されることはない。主人公認の愛人を持つものもいるくらいだ。
 責任感から、私と結婚したって……。アルは幸せにはなれない。
 だって、アルの好きな人は私じゃないんだから。
「アルが幸せじゃないと、私も幸せじゃない……だから……」
 メイシーの目から涙がこぼれ落ちている。
 なんで、泣いてるの?
 少し首を傾けたら、私の目からも、涙が頬を伝って湯船に落ちた。
 ああ、私、泣いていたのか。
 メイシーは、私が泣いているから、一緒に泣いてくれてるのね……。
「メイシー……」
「うん」
 泣いてるって自覚したとたんに、次から次へと涙が落ちる。
「わた……し……」
 声が震える。嗚咽が漏れる。
「うん」
「わた……し、好きだったの……」
「うん」
 メイシーもいっぱい涙を流しながら相槌をうってくれてる。
「アルが……好き、だったの……」
「うん」
 どれくらい二人でそうして泣いていただろう。
 さすがに、頭がぼーっとのぼせてきたところで、風呂を出た。
 二人とも、いかにも泣きましたな顔だ。
 しかも
「メイシーから花の匂いがする。これは、ロッテンさんにばれちゃうわね」
「あああっ!どうしようっ!リリィーのせいですからねっ!」
「ふふふっ」
「あははは」
「「ふはははははっ」」
 対しておかしくもないんだけど、二人で爆笑。
「メイシーと友達になれてよかった。これからも仲良くしてね」
「何をいまさら!死ぬまで友達でしょ?」
「うん。あのね、代筆屋と代読屋を誰かにかませて、私は王都に戻ろうと思うの。ついてきてくれる?」
「代筆屋と代読屋を誰かに?」
 うん。せっかく始めたんだから。もう少し続けたい。識字率アップにつながるかまだ分からないけれど、それでも……。
「一度エディとも相談して、誰かを雇うとどうなるかも考えてからだけれど」
「明日にはエディが領地から戻ってくるという話ですから、早ければ1週間と待たずに王都ですか……」
 そうか。
 王都に帰れば……。護衛として雇われていたアルとはお別れだろう。
 そうか……もう、会うことはないんだ。
 最後に、アルの笑った顔が……幸せそうに笑った顔が見たかった。
 でも、きっと、アルは私の顔を見ると、苦しそうな表情を浮かべるのだろう。
 私が、アルを不幸にする……。