■43
コポコポコポ。
メイシーがティーポットからカップにお茶を注いでくれる。
今日は、私の好きなローズヒップのようだ。ふんわりと花の香りが広がる。
ベッドで上半身を起こす。
それから、思ったほど体の痛みがないことに気が付いたので、そのままベッドを下りて、メイシーがお茶の用意をしているテーブルまで歩いて行った。
「リリィー、大丈夫なの?」
「うん、平気みたい」
あれから、3日。
壁にかかった鏡に映った顔を見る。腫れあがっていた頬も元通りだ。幸い、痣になることもなかった。
馬車から落ちたときに打ち付けた体の痛みは翌日には引いていた。
肩の切り傷だけは、まだ包帯が取れない。動かすと痛みが走る。だけれど、熱も出なかったし、大したことはなかった。
代筆屋も代読屋も休んでいる。
これからどうするのか……。
3日間、ただぼんやりとベッドの上で過ごしていた。
メイシーがそばにいてくれるけれど、何も言わない。
何も、聞かない。
まるで、あの日のことは何もなかったかのように、話題にしない。
……。
少女たちが、ライカさんがどうなったのかも聞いていない。きっと、無事何だろうとは思うけれど……。
このまま、肩の傷がいえれば、本当に何もなかったことにして元の生活に、4日前までの生活に戻れるだろうか?
無理だろうとわかってはいる。けれど……あの日々に戻りたい。
3日間考えた。
この痛みは、領民のことを考えていなかった私への罰だ。
好きな人を探して結婚するなんてわがまま。そりゃ、貴族だって恋愛結婚する。だけど、相手は市井の人間じゃない。
いや、もちろん、貴族に見初められてお輿入れする市井の女性はいる。
だけれど、私は女で、結婚相手は男だ。公爵領の領地経営をしていかなければならない。貴族としてどうあるべきか、領地経営とはどのようなものか、そのための人脈がどれほどあるか……知識も経験も常識も覚悟も能力も人脈も人望も……。必要なことはたくさんある。市井の人間は貴族が通う学校で基礎的な勉強すらしていないのだ。
……。自分の恋のために、領地を、領民を犠牲にする気なのか……。なんて、馬鹿なことを……。
お父様が今まで私の婚約者にと探してくださった人は、それなりの人なのだろう。
ノックの音に入室許可の返事をすると、アルが入ってきた。

