婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 小屋の裏から、ほろ付きの小汚い馬車が運ばれてきた。馬が1頭つながれている。そこに、私と護衛が乗ってきた馬もつながれた。
 男の一人が、私の手を後ろ手に縛り、幌馬車の中に押し込んだ。
 そして、別の男が小屋の中から同じように手を縛られた3人の少女とライカさんを次々と馬車に押し込む。
「ライカさんっ」
「リリィーちゃん……ごめん、私のせいで……」
 ライカさんの頬には、殴られたような跡があった。
 女に手を上げるなんてっ!怒りがこみ上げてきたけれど、今の私にはどうすることもできない。
 ギリギリと奥歯をかみしめる。
 他の少女たちは皆、疲れ切った顔をしていた。頬には涙の跡が残っている。
「ううん……」
 私が、領主の娘なのに、領民をこんな目に合わせちゃって……私……。
 何が、3S男子を見つける!よ!
 貴族の娘として、するべきこともしてないくせに!貴族が税金で生活させてもらえるのは、ちゃんと領民を守っているからなのに。
 私、自分の恋愛にかまけて……防げたかもしれないことを見過ごしちゃって……。
 なんて愚かなんだろう!
「大丈夫だよ……」
 何が大丈夫なのか。
「私と一緒に来た人、殺されなかった。だから、私たちも命は取られない」
 詭弁だ。
 命さえあれば大丈夫なわけがない。
「まだ、時間はあるから……きっと助けがくるから……」
 これも、詭弁。
 私がいないことに気が付けば、大捜索は行われるはずだ。だから、助けがくるのは間違いないはず。
 だけど、売られてしまうまでどれだけの時間があるかはわからない。
「帰りたいよぅ……」
 一番幼い少女が泣き出した。
 アルが、あの地図に気が付いて小屋へ向かってくれれば……。大捜索などせずに、すぐに見つけてくれれば……。
 泣き出した少女をぎゅっと抱きしめたかったけれど、両手を縛られているのでそれもできない。少しだけ身を寄せる。
 守らなければ……。
 その思いが、この先どうなるのかという不安と恐怖に飲まれるのを、何とか押しとどめていた。


■42

 馬車は結構なスピードで進んでいった。2度ほど少しの休憩をはさみ、日が暮れるまで進み続けた。
 一体、どこまで来たのだろう。
 幌馬車の中は月明りもほとんど届かず真っ暗だった。