婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 紙には、ライカさんに教えた文字が書かれていた。たったの二文字。
 「き」と「す」だ。
 なぜ、こんなものを?
「ライカさんが、この手紙をレイモンドさんに渡すように子供に頼んだ?」
 私の質問に、レイモンドさんが早口で答える。
「子供が言うには、ライカからだとうちに届けるようにと、身なりの良い男に頼まれたそうだ」
 身なりの良い男?
「それで、なんて書いてあるんだ?」
「こちらの文字が「き」で、こちらの文字が「す」です。ライカさんに教えた文字はこの二つだけなので……この手紙がライカさんからというのは本物っぽいです」
 私とアルとライカさんしか、何の文字を教えたのかなんて知らないはずだ。もしかすると家族や友人に話しているかもしれないけれど……。でも家族であるレイモンドさんが読めないというんだから、誰かに話をしている可能性は低いってことだよね。
 なんで、ライカさんが書いた手紙を男は子供に届けさせたんだろうか?
「好きだと書いてあるのか?そうなのか?……ああ、なんてことだ……」
 レイモンドさんが頭を抱えた。
 手紙には「きす」と書いてある。それを、なぜレイモンドさんは「すき」だと書いてあると思ったのだろう。
「手紙を持って来た身なりのいい男は貴族だったに違いない……。ライカまで、貴族と駆け落ちしたのか?客で来ていたあの男か?」
 カールさんのこと?
 ライカさん、別にカールさんを好きだったような感じじゃなかったけどなぁ?
 ちょっと変なんだよねって怪しんでたくらいだし。
 いや、でもごまかしただけで、本当はカールさんに「好き」って伝えようとしてた?
 うー、わからない。女の言葉や態度がその通りでないことはるわけだし……。
 うんうんとうなってレイモンドさんは帰っていった。
 ライカさんが駆け落ち……。
 いくら、駆け落ちした人が続いてるからって……。ライカさんまで?
 だけど、なぜライカさんは手紙を?手紙を渡すくらいなら、その子供に伝言を頼めば済んだんじゃない?
 「心配しないで、幸せになります」とか、簡単な言葉なら子供にだって伝えられるよね?
 間に身なりの良いという謎の男が入ってるから、ライカさん本人からの言葉だと証明するために手紙?
 いやでも、筆跡で誰か判断するのに2文字だけでは……。
 「きす」という言葉に意味があるの?
「!」
 まさか……!