婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 時々しか来ないお客さんを待って一人で店番しているのはとても退屈で、ちょくちょく裏のアルのところに顔を出して話しかけていた。
 だけど、好きだという気持ちを自覚してからは、アルの顔が見たいから、アルの声が聴きたいから……。
 退屈だから顔を出してるんじゃないのかもって思い始めちゃって。
 どうしよう、顔を出しすぎかな?って、妙に悩んで、顔を出すのを躊躇してる……。
 あー、そろそろ顔を出しても大丈夫かな?でも、まださっきから時間全然経ってない?
 ……。
 だめだめ。
 本でも読んで落ち着こう。
 引き出しを開けて、読みかけの本を取り出す。
「あ、これ」
 カールさんに頼まれた手紙の写しだ。昨日取りに来た人に代筆した手紙は私たけれど、風貌が怪しかったので念のため写しを書いたんだった。
 このこと、アルに言ってない。
 店の奥に続く扉に手をかける。
 用事があるんだからね?このこと言うためだからね?
 そっと扉を押し開くと、アルが火かき棒をゆっくりと動かしながら看板に当てていた。
 火の近くで作業しているため、アルの額には少し汗が浮かんでいる。
 アルの青空のような青い瞳に、暖炉の火がちらちらと映っている。
 恋の炎……。
 ふと、小説に出てきた表現を思い出した。目に映る恋の炎。好きな子への情熱……。あのアルの情熱の炎は誰に向けられる目なのか……。
 胸の奥がぎゅっと痛くなった。
 好き。
 アル……。本当は、私……。
 アルに泣いてすがって、私のこと好きになってよってわがままを言いたい。
 なんで、私、好きな人がいる人を好きになんてなっちゃったんだろう……。恋は幸せになれる素敵なものだって、そう思っていた。
 なのに、胸がこんなに苦しい。
 アル、私を見て……。
 アルがふいに顔を上げて私を見た。
 目が合う。
 息が、止まった。
「どうかしましたか?」
 アルが作業の手を止めて、私の前に立った。
 ドキンドキンと、心臓が高鳴るのを押える。
 ビックリした。私を見てほしいって思った時にアルがちょうどこちらを見るものだから……。
「えっと、ほら、カールさんに代筆した手紙を預かる依頼されたよね?昨日、取りに来たんだけど、取りに来た人間がちょっと怪しかったの」
「怪しい?」