婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 明日はラブレターをもらった女性が返事を書きたいと代筆屋にも来てくれないかなぁ……と、期待に胸を膨らませて眠った。
 まさか明日、市井での日々が崩れ去ろうとは夢にも思わなかった

■39

 朝、いつものように看板回収に出掛けようと外に出たところで声がかけられた。
 ライカさんの兄のレイモンドさんだ。
「ライカを見なかったか?」
「え?ライカさんですか?見てませんよ?どうかしたんですか?」
「いや、朝起きたらいなかったんだ」
 レイモンドさんは心配そうに眉を下げている。
「時々、悩み事があるときに早朝に散歩に出かけることはあるんだが……。朝食の時間になっても戻ってこなかったから、どうしたのかと」
「悩み事?」
 ライカさんの昨日のお店の様子では、悩んでいるように見えなかった。
 いや、もしかしたら悩んでいる姿をお店では出さないように明るくふるまっていたのかな?
「今から、街の中を看板回収で回りますから、見かけたら声かけてみますね!」
「ああ、ありがとう、頼んだよ」

 看板作業も何日か行っているので、そろそろ取り外して作業できるところが終わりそうだ。
 今日は南側の店を回る。
「ライカさん、何を悩んでいるんだろうね?昨日は、私のすることにワクワクするって言ってくれて……」
 アルが少しだけ考えるように間を置いて答えた。
「そうですね、確かに。覚えた文字を誰かに見せたかったって、楽しそうでした」
 そうだった。うん。
 文字を覚えたことが楽しくて仕方がないって感じだった。
 その裏で、何をそんなに悩んでいたのだろう?
 悩んでいることを隠さないといけないような悩み?……。
 あ……。
 恋の悩みとか?
 私のように、気が付かれてはいけない人を好きになってしまったとか……?
 ずっと気持ちを隠していて、時々辛くなって、朝日を浴びながら街を歩いているとか……。

 3枚の看板を回収して、店に戻る。
 ライカさんの姿は見つけることができなかった。
 アルはいつものように店の奥で看板書き作業。火を起こして、焼きごて替わりに火かき棒を使って、木に焼き目を使って文字を書いたりしてるんだよね。そのため店では作業ができないのだ。
 私はと言えば、店番のために店にいるんだけど。