婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 貴族と姿を消したって、耳にしただけで3人目だよっ!どういうことよ?
 悪い考えが頭をよぎる。
 友達同士でお忍びで遊びに来ていた貴族の放蕩息子たち。
 遊びで町娘に声をかけ、駆け落ちしようと誘い出して数日遊んでぽいっ。
 ……。
 馬鹿な奴らほど、誰かとつるむと気が大きくなってろくなことをしでかさない。
「ごめんなさい、私にはあなたの娘さんがどこにいるのかはわかりませんわ。ですが、もし娘さんが帰ってきたら……」
 何かないかとポケットからハンカチを取り出す。小さくウィッチ公爵家の家紋が入ったものだ。そこに、携帯用のペンでサインを入れる。
「このハンカチを持って、領主様のお屋敷を訪ねてください。領主様が力になってくれるはずです」
 もてあそばれて身も心もボロボロになって帰ってきたら……。
 貴族を恨むようになるかもしれない。そんな人間が増えれば、今の体制に不満を持つ人間が現れるはずだ。
 貴族の不始末は貴族が負うのは当然だ。もてあそんだ貴族の処罰、慰謝料の請求、職のあっせんなど、いろいろとウィッチ公爵ができることがあるだろう。

■37

 次の日、廊下の突き当りのタペストリーの前で大きく深呼吸。
 意識しすぎて変な動きをしませんように。好きな気持ちを楽しもう。
 タペストリーをめくって、その奥のクローゼットの扉を開ける。
「おはよう、リリィー」
 アルがいつものように笑顔で、ピンを差し出した。
 アルの笑顔は、寒い日に食べる温かいシチューみたいだ。心の奥がほんわりと温かくなる。大きくてごつい手のひらに、小さなピンを一つちょんっと乗せた手を差し出すのって、可愛いかもしれない。よくなくさずにすんでるなぁ。
「おはよう、アル。今日も代筆屋がんばろうね!」
 私、アルが好き。不思議なことに、好きということを肯定して、意識することも楽しもうと思ったら、焦って変な行動を抑えることができるようだ。
 アルの手の平からピンをつまみ上げる。あ、指先が触れた。ドキドキ。ラッキー接触?ふふ。