婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

「なるほど、生徒に課題という名目で書いてもらうんですね。1人10枚書いてもらったとして」
「ま、待って、覚えるための見本の文字なんだから、書いてあればいいってものじゃなくって……」
 アルがハッとする。
「そういえば、有能と言われる文官ですら、解読が難しいような文字を書く者もいたな……」
 ん?アルには有能な文官の友達とかいるのかな?騎士関係の友達が多いのかと思ってた。
「そうなると、何か他によい案は……」
 ほっ。
 アルもメイシーも、頭を動かすことに没頭して私の様子を気にすることもなさそう。
 私も、考えことをすればアルを意識しすぎることもない。うん。これからも識字率アップのためにいろいろ考えよう。心の平穏のためにも。

「とまれー!」
 馬車の外から罵声が聞こえ、馬の嘶きとともにぎしりと馬車が動きを止めた。
「何だ、暴漢か?」
 アルが剣に手をのばし、小窓から外の様子をうかがう。
「周りを取り囲まれている様子はないな……二人とも、馬車から出ないでください」
 アルが声を潜め私とメイシーに支持を出す。そして、ゆっくりと相手を刺激しないように馬車のドアをゆっくりと開き外へと出て行った。
「娘を返してくれっ!」
 え?
「わしの娘、馬車に乗っているんだろう?返してくれ!娘はまだ成人もしていないんだっ!」
 声が馬車の前から横へと移動していくのが分かる。そっと小窓から外の様子をうかがえば疲弊した様子の男性が一人アルの前にいた。
「何のことだ?知らない」
 アルが馬車の扉の前に陣取り、男の接近を阻む。
「知らないわけないじゃないか、こんな立派な馬車に乗るのは貴族だけだろう?わしの娘は貴族に連れていかれたんだっ」
 え?貴族に連れていかれた?
 窓越しにアルに声をかける。
「私が話をいたします」
 男性1人のようだし、いざとなればアルが守ってくれるだろうと、私は馬車の扉を大きく開いた。
「娘さんのお話聞かせていただけますか?」
 男は、馬車の中をの置きこむように体を伸ばした。そして、中に私とメイシーしかいないのを確認すると、力尽きたようにガクッと膝をついた。
「いない……わしの、13歳になる娘が……貴族に見初められたなんて言い出して……今朝姿を消したんだ……」
「駆け落ち?」
 ぼそりとメイシーがつぶやいた。
 またか!