ディンビエ国とロスティ国の間には、魔の森が広がっている。

 魔の森は、魔素が濃すぎて生き物が住むには困難な場所だったが、それでも過酷な環境で生きる生物がいた。それが、魔獣と呼ばれる獣である。

 魔獣は、狼や狐といった森に生息しているような動物の姿をしているが、魔力を行使した魔術を扱うことが出来るものもいる。おとなしい馬の姿に油断していたら、突然木が鞭のようになって襲ってきた──そんなこともあるのだ。

 魔獣には、大きく分けると二種類あって、理性がある魔獣と、理性がない魔獣が存在する。

 理性がある魔獣には、秘密があった。

 実は、人に恋心を抱くと、恋した相手に好かれたいあまりに人化──つまり、獣の耳や尻尾などの特徴を残した人、獣人になるのである。

「無事に恋が実れば、獣人特有の耳や尻尾がなくなり、人と同じ姿になります。しかし、残念ながら想いが通じ合わなければ、獣人は消滅する運命にあるのです」