全ての人間は“赤ん坊”という職業からスタートする。
 
 
そして小学生になり

足し算+
引き算-
掛け算×
わり算÷


世の中に羽ばたく第一歩を学び始め、それに伴い体の変化を知り、焦る。
 
やがて中高校生になり


『もうアイツはアイツとできてる』だの『いや昨日別れた』だの騒ぎ始め、いかがわしい本達は教室内を密かにクルクルと回り、“自分”を確立しようとユメやキボーを無理矢理当てはめ始める。
 
 
そしてその中でも僕みたいな奴は、アイデンティティを変に意識し始めてさ、頭を悩ませ、いつまでもそこから飛び出せずに足踏み。
 
ただただ年だけが過ぎ……もし僕に特殊なパワー

うーんと

そうだな

例えば過去に戻れる力とかを使えたら、僕は永遠に校庭を走り回るガキでいたい。
 
 
こういうのを確か――
 
「えーと……上田健太くんだね。あっ、君服飾関係の学校通ってるんだー」
 
「……はい」
 
「20歳か、うちの息子と同い年だね。将来はやっぱ服飾関係の仕事に? 上田くんは何系をやりたいの?」
 
「……はい」
 
「……えっ、いや『はい』じゃなくて、今質問してるんだけど」
 
 
「……はい?」
 
「うん、お前帰れ」
 
インチキ臭いクリーム色の扉が、僕を怒鳴りつけるようにバタンと閉まる。

今月で三回目の失敗。


きっと今、僕は人生の底辺にいるんだ。