2年生

「これより第113回入学式を始める。」
体育館に学校の先生の声が響く。
今日は私の通う学校の入学式。生徒会は自動代表として全員出席しないといけない。
生徒会の人達は全員静かにしながらも忙しなく動き回っているというのに、クラスメイトの葉月 霞(はつき かすみ)は呑気に椅子に座って可愛い子を眺めてる。ったく。2年生になったという自覚は無いのか…。
これでは2年生としての、生徒会としての威厳が保つことが出来ないと思い持っていたファイルで葉月の頭を軽く叩く。
「みんな忙しそうでしょ?葉月も手伝って。」
葉月はだるそうに返事をして先生の方に向かっていった。向かっている途中に振り返って舌を出してきたのは少しムカついたけれども…。
でも葉月はそういうやつだ。いちいち気にしてイラついてたらキリがない。よし。仕事に専念しよう。そう思って取り組んだ初めての入学式での仕事。変に緊張して終わる頃にはヘトヘトになっていた。そのまま帰る予定だったけど、忘れ物をしたから生徒会室に戻った。生徒会室に入ると誰かが窓を開けてくれていたのか、本のいい匂いに風の心地よい感じが混じって疲れが一気に押し寄せてきた。都合のいいことに今は誰もいない。
「誰も…いない…よね」
私は生徒会室のソファーに倒れ込んだ。心地よい風が吹き付ける。まだ少しだけ肌寒さが残るがそれさえ心地よく感じる。私はそのまま眠りについた。

気づくと辺りは夕暮れ時で、昼過ぎに終わった入学式はとうの昔になっていた。
「あれ、なんでこんな時間まで…。」
スマホを見ると通知が3件。
母からの現在地確認に公式アカウント。それに昼のニュース。
「あぁ、やらかした…。」
お母さんには3時には帰ると言ってしまった。時刻は午後5時30分。今更、遅れたから今から帰るなんて言えない。しかも遅れた理由が寝てしまっていたからなんて…。余計言えない。
「あぁーつっかれた」
ドアの方から声が聞こえた。
「うわっ!!お前誰…。って紅瀬かよ。ってか紅瀬こんなとこに居たのかよ。もあ帰ったかと思ってたわ。入学式の片付けしろって先生言ってただろ。」
え…?なんにも聞いていない。何それ?
「何それ…?聞いてない…」
「は?春休み何回か生徒会で集まる日あったじゃねーか。そんときに言ってたぞ?新2年は片付けだから残れって。」
「それ、先々週の火曜日…?」
「あー、そんくらい」
先々週の火曜日は私が唯一生徒会の集まりを休んだ時だ。
「私その時休んでた…。」
「あっそ。お前が来ないせいで1人分の作業みんなでしたんだからな?感謝しろ」随分偉そうだ。何様なのだろうか…。
「どーも。」
そしてしばらく沈黙が続いた。お互い帰るにも帰れず変な空気が流れ始めた。
「ってかさ。お前片付けしてないのになんでこんな時間までここにいるんだよ。」
「なんでもいいじゃん。」
「は?来なかったくせに生意気すぎるだろ。」
「…寝てた。気持ちよくて。」
「何?なんかしてたの?」
いたずらっぽく笑う葉月が何を考えてるかわかってしまった私に少し苛立ちを覚える。
「ざっけんな。違うに決まってるじゃん。帰る。じゃーね。」
吐き捨てるように言い、ドアの前にいた葉月を軽く押して、振り向かずにひらひらと手を振った。
「ばーか!!」
後ろから小学生がいたような気もしたが、無視して家に向かった。
通知が1件。
「分かった。気をつけて帰ってきてね。今日のご飯は肉じゃがだよ。

結局帰ってきたのは六時半くらい。
「ただいまー!」
お母さんがいると思ってわざと元気よくバカっぽく言ったのにお母さんはいなかった。その代わり、リビングにはお兄ちゃんがスマホをいじってた。
「ん、おかえり。」
そっけない。
「お母さんは?」
「仕事。急に呼ばれたらしい。それより飯。」
やっぱりそっけない。でも、お兄ちゃんもこういうやつ。もう慣れた。私は慣れた手つきで食洗機の中の食器を片付け、冷蔵庫の肉じゃがを取り出し電子レンジに放り込んだ。ついでにちょっとしたサラダと和え物も作ってあげた。そしてそっとテーブルの上にお皿を置く。お兄ちゃんはありがとうもいただきますも言わずに無言で食べ始めた。私もお腹がすいて、お兄ちゃんの前に座って小さく頂きますとつぶやく。
お母さんが作ってくれた肉じゃがは美味しいけど物足りなくて途中で食べれなくなってしまった。お母さんには申し訳ないけど
結構残してお兄ちゃんにあげた。何故か今日はやるせなくて勉強も捗らず、諦めてお風呂に入ることにした。時刻は7時半。お風呂に入っているとお父さんが帰ってきた。8時くらいのこと。もうちょっとお風呂に使っていたかったけど、お父さんのご飯を用意しないといけない。急いでお風呂を出てお父さんのご飯を用意する。お父さんはそれが当たり前かのように椅子に座って携帯とじいっとにらめっこ。
「はい。どうぞ。」
私がそう言ってもお父さんはなんにも言わずに手を合わせて食べ始める。メガネから見える目は細く睨んでるみたいだった。お母さんとは大違い。