#0 ユキノヒニ



永遠に雪の降る土地にある城にコンコンっと机をノックする音が響いた。


「失礼します。本日より主様に仕えさせて頂きますアステラ家のキョウです。」

今日から仕える主人というのに、無表情で素っ気なく氷のような目をしている。

「ラスティア・レイだ。」

先程の青年よりももっと冷たく、凍てついた、体そのものが氷で出来ていると言われても信じられるような雰囲気を纏った青年の見た目をした者はそんな雰囲気と裏腹に
ふんわりとしている長く伸ばした銀色の髪を下の所で結っている。

「よろしくお願いします。まず何をしたら良いでしょうか。」
キョウと言った青年の黒色の髪が揺れる。

「紅茶でも淹れてくれ。」

さっきの凍てついた雰囲気は変わらないレイは椅子に座り、机に積み重なった大量の仕事に手をつけ始めた。

「分かりました。お茶菓子も入りますか?」

「あぁ。」

紅茶を淹れる音と、パキパキと言う暖炉の薪の音だけが部屋に響く。


「お持ちしました。紅茶とお茶菓子です。
紅茶は甘い風味の物をご用意させて貰いました。お茶菓子はマドレーヌを。」
淡々と出した紅茶とお茶菓子について説明し、机に積み重なった仕事の一部を暖炉の前のテーブルに置き、仕事を種類ごとに整理している。

「キョウ、まどれーぬとはなんだ。」
むっとした顔のレイはまどれーぬとにらめっこしながらキョウにそう聞いた。

「マドレーヌは、人間の国で人気の甘い菓子です。なんでも、しっとりした食感と舌触りの良い甘さに虜になるとか。」
少し目を細めたキョウは書類整理の手が止まった。
「昔、私も食べました。最後まで食べることは出来ませんでしたけど。美味しかったですよ。」

「美味しかったのに全部食わなかったのか、矛盾しているぞ。」
言い終わってすぐ、レイはぱくっと一口マドレーヌを食べた。
「ん、、なかなか美味しいな。人間はこんなものまで生成してたのか。」
小さい口でモグモグと食べるレイはさながら小動物のような可愛ささえ感じられる。
先程から冷たい空気を纏えど、一つ一つの仕草や言動は子供のような反応や行動だ。

「魔王が人間の食べ物なんて食べるんですね。しかもそれを上手いなんて、どうかしてる。」
呆れた様な、少し怒った様な、そんな雰囲気がその言葉にはあった。

「ふっ、、私は人間が好きだ。大好きで大嫌いだ。そんなこと部下には言えないが、
あ、キョウがもし部下にバラしたら許さないからな。」
しまったと言わんばかりに慌てるレイは、冷めかけている紅茶に手をつけ、目を見開く。
「この紅茶もなんというか、物凄く美味しい。今までは苦いものばかりだったが、甘い紅茶もあるんだな、、」
よくこれで魔王が勤まるなと思うくらい、コロコロ表情が変わる。でもやはり人を、魔物を近づけないような、冷たい空気がレイの周りに纏わっている。

「魔王様、仕事をしてください。これ、作業しやすいように分類したので。」
いつのまにかソファから立ち上がり、レイの机に仕事が積まれていく。
「後、こっちはまだ分類されてないので持っていきます。」
また暖炉の前のテーブルに仕事をドンッと置いてソファに座り、また分類を始める。

「ん、ありがとう。」

それからは、夕方までレイは机で仕事を、キョウは紅茶を淹れたり、仕事を手伝ったり、すぐに時間が過ぎた。



#2に続く。



あとがき
ネバーブレイク「雪の精編」を読んで下さり、ありがとうございます。
一話の時点で主要人物二人しか出てないという事実、、笑
逆に2話はキャラが結構出て来ます。(予定)
魔王様とキョウ君の性格は掴めましたか?
ここが分からないよ!とか、細かいプロフィールが知りたい方はコメントしてくだされば答えますので、是非感想&質問、ご要望等もしてください❗