季節は、春。
辺り一面、大きな広場になっていて、そよそよと花たちが揺らめいている。
目の前には、ゆっくり流れる川。
この場所と向こうの岸に繋がる1本の赤い橋。
その橋の向こう側は、白い霧がかかってよく見えない。
でも、前方から足音が聞こえてくる。
白い霧の中で、ゆっくりと近づく黒い人影。
橋の手前で、その人は立ち止まった。
私との距離は数十メートル。
「‥‥‥瞬(しゅん)?」
確信が持てなくてそう尋ねる。
「‥‥‥瑞希(みずき)?」
聞き覚えがある声が私の耳に届いたその瞬間、見る見るうちに白い霧がなくなりその人は姿を現した。
風にそってさらさらと揺れる黒い髪。
白い肌に背が高くてスラリとした体格。
彼の名前は、宮沢(みやざわ)瞬。
私と同じ、高校3年生で私の彼氏でもある。
今、1番会いたかった人に会えて、一気に心が弾む。
「やっぱり、瞬だ! 今すぐ、そっちに行くから待っ‥‥‥」
待ってて!
と言おうとしたのに、瞬に言葉を遮られた。
「来るな!!」
今までに見たこともない顔で、瞬はそう叫んだのだ。
「‥‥‥っ!」
びっくりして、動きが止まる。
いつも優しくて、滅多に怒ることがない彼。
なのに今、怒っていることがひしひしと伝わって、思わず息を呑む。
そんな私に、またもや冷たい声が降りかかった。