元彼に買収されました

急に心臓が音を立て始めた。

なんで？
頭の中でクエスチョンマークだけが増えていく。一瞬であの時に気持ちが引き戻された感覚だった。

「…そっか。」
お母さんにも彼と付き合っていたことを話してない。

もちろん実家を守るために彼と別れたことも。

私が彼と別れたのは無駄だったの？悔しくて泣きたい気持ちをぐっと堪えた。


数日後
橘不動産の担当者の森さんという人がウチを訪れた。

高級そうなスーツにピカピカに磨かれた革靴。圧倒的な差を見せつけられたような気がした。

話を聞いてわかったことはウチはもう倒産寸前ということ。そして多額の負債を抱えていること。普通なら買収なんてしないけどある人の一声で買収することになったらしい。

「副社長が買収しようとおっしゃいまして。」

「じゅっ…副社長が！？」
ずっと静かに話を聞いていた私がいきなり大きな声で話すのでみんなの視線が一気に私の方へ集中した。

続けてくださいと言った後、恥ずかしくなって下を向いた。

でもどうして彼はウチを助けてくれたの？こんな倒産寸前の会社見捨ててもいいはずなのに。ましてや酷い別れ方をされた元カノの実家なのよ？

わからない。彼の考えが読めない…

自分一人で考えていても堂々巡りをするばかりで、答えを見つけることは出来なかった。