ノワールの兄であるリオンは、ノワールが走っていった方を見つめていた。本当なら、ノワールを追いかけたい。しかし、体が何故か動いてくれないのだ。

オズワルドにノワールが暴言で捲し立てられている間、リオンたちは誰一人オズワルドを止めることができなかった。人は突然のことにすぐに動くことはできない、そうリオンは一瞬考えたものの、ノワールからすればその言葉は言い訳だ。それより、今はメルキュールに訊かなければならないことがある。

「なあ、ノワールとお前の前世がどうとかあのおっさん言ってたけど、どういうことなんだよ?」

カズがリオンよりも先に俯きがちのメルキュールに訊ねる。顔を上げたメルキュールの目に、いつもの光はなかった。緊張がその場にいる全員に走る。

「このことは、本当は死ぬまで誰にも話さないつもりだったんだ……」

メルキュールはリオンたち一人ずつを見つめた後、その場に座り込む。釣られるようにしてリオンたちもその場に座り、メルキュールが重い口を開いた。