堪えろ。吐くな。
己にそう言い聞かせて、なるべく不自然に見えないように、きゅっと口を真一文字に引き結んだ。
「……吐けよ」
「……」
「俺しかいねぇし、片す用のポリ袋もあるから」
しかしやはり、兄にはそんな小細工通じないらしい。
ほら、と視界の中に差し出された透明なポリ袋。私が花を吐いたときのために兄が持っていてくれたのだろうかと思うと、さらに吐き気が強くなる。
「……っ、うぇ、」
吐きたくない。けれどこのタイミングなら、兄のせいで吐いているとは思われない。その、たった一瞬の甘えた思考が浮かんだ時点で、ダメだった。
堪えきれなくなって、ぼとぼとと口から花とちぎれた花弁が涎と共に落ちていく。
「…………カタクリ、」
床に散らばる紅紫色を見て、ぽつりと兄が呟く。
「え?」
「……別に……花の、名前」
「あー……そう、なんだ……詳しいんだね」
「……たまたま知ってた、だけ」
たまたま……?
私は知らない花だけど、そこそこ知名度のある花なのだろうか。
ハンカチで口を拭って、散らばった花を集める。集め残しがないことを確認してからポリ袋の口を縛ると、兄はポリ袋の中身を見つめながら、小さく言葉を吐いた。
「……初恋、寂しさに耐える」
「え?」
「この花の、花言葉」
「……」
「……吐く花にもちゃんと意味があるんだよ」
「……詳しいんだね」
「……病気だっつうんだから、とりあえず調べるもんだろ、こういうのは」
「そう、なの……?」
「おま……自分の身体のことだろうが」
「……別に……意味なんて知っても、治るわけじゃないし」
調べた、の?
わいた疑問に、また吐き気を催したけれど、さすがにもう誤魔化しはきかないだろうから、手に持ったポリ袋を握りしめて、必死に堪えた。



