どこの街にもある書店。
 駅ビルにある大型書店に、それに、昔ながらの自動ドアすらない小さな本屋。
 マンガのコーナーには「生殺与奪の権を他人に渡すなりゃああああああ」のヒット作品が平積みではなく正方形積みされている。

 その近くに、派手な表紙のライトノベルが積まれ、その隣にライト系の小説が陣取っている。その小説たちにまぎれ、今や当たり前のように市民権を得たケータイ小説が存在をアピールしている。

 もう、区別がつかない。
 12年前はまだ、心ない大人たちから「ケータイ小説(笑)」的な扱いだった。でも、もう誰もそんなことを口にしない。



 まだケータイ小説が知られていない頃。ひとりの女性作家が、自らの体験を元にした小説を公開し、絶大な支持を受けた。

 当然のように、オレはケータイ小説の存在なんか知らなかったし、興味もまったく無かった。ハッキリいって、素人が書いた文章など読む気にもならなかった。


 というか、健全は男子は目の前にあるエロを追及し、それに青春の情熱を全力で注ぎ込むものだろう。そして、すべての怠惰を愛し、すべての怠惰に愛され、怠惰に過ごす選手権で準優勝・・・まあ、そういうものだろう。


 だけど、ふとしたキッカケで読み始めたネット上の小説に没頭した。
 通学中に読んだばかりに、満員電車で真っ赤な目のウサちゃんに変身。思わずムーンクリスタル・・・ゲフンゲフン。

 最初から最後まで一気読み。
 あまりの感動に夜空に向かって「シャココール」。
 星空に拡散されていったシャココールは、いつまでも苦情の声が追いかけてきたっけかな。



 ネット上で見掛けたタイトルを手に取り、その表紙に視線を落とす。
 確かに、書き手は格段に上手くなっているし、面白いとは思う。
 だけど、心に響かない。
 流行りを追い掛け、あやかしや神様のバーゲンセール。
 面白いよ。
 だけど、あのときのように、心が叫び出すことはない。
 文字の向こう側に、作家の息遣いを感じない。



 そして、あの日。
 たまたま目にした番組は、「ケータイ小説特集」。そして、斜め後ろからのアングルで質問に答えていたのは、シャコだった。

 プリン・・・中途半端に染まった茶髪に、かみかみ・・・不慣れな言葉たち。その存在がなぜだか愛おしくて、オレは一瞬で恋に落ちた。




 あまりにも遠い存在。
 接点などあるはずもなく。
 どうしようもないことは分かっていたけど。
 それでも、あふれる想いは止まらなくて。
 どうしても、会いたくて。
 「シャココール」を届けたくて。

 キミに会いたくて。
 キミの声を聴きたくて。
 キミを守りたくて。

 ケータイ小説を書いた。
 想いがとどきますように、願いを込めて。