二日間、頭から溢れ出すぐらいの引き継ぎを受けた。

オフィスの皆んなは、「大丈夫。」と言ってくれるけど、サポートに来ているのに足を引っ張る訳にはいかない。

「渋谷さん、もうこれぐらいでいいかな?」

谷山さんから聞かれて時計を見ると、夕方の6時を過ぎていた。

「ごめんなさい。谷山さんも帰国の準備がありますよね。」

「そうなんだ、ごめんね。でも、ここまで引き継ぎができるとも思ってなくて、僕は安心して日本に帰れるよ。今度は僕が日本からサポートするから。」

「ありがとうございます。頼りにしてます。」

「渋谷さん程は頼りにならないけどね。じゃあ、ホテルまで送るから、帰ろうか。本当は、夕食ぐらいはご馳走したいところだけど、約束があるから、ごめんね。」

「約束があるなら、私は地下鉄で帰りますから。」

ロスに来てから、ホテルとオフィスの送迎をずっと谷山さんがしてくれている。
でも、今日はまだ明るいし、地下鉄にも乗ってみたい。

「それは駄目だよ。僕の約束があるから。」

「谷山さんの約束?」

「そう、6時を過ぎたら必ずホテルまで送るっていうね。来週からもそれは変わらないよ。誰かが必ず渋谷さんを送るから。」

そんな事、会社からは聞いていない。
子供じゃないし、私は海外生活にも慣れているから、危険を避ける術も知っている。