Dying music〜音楽を染め上げろ〜

二階の B スタジオのドアを開けた。



「来ていたんだ、ゆずな。」



壁にもたれかかりながら音楽を聴いている少女。


この子は角川ゆずな。中学三年生で彼女も夏樹と同じく学校に行っていない。両親が離婚して、母親が夜遅くまで働いているから親子間のコミュニケーションはほとんどない。それでよく俺がいるMidnightに遊びに来る。





「早く帰れ。またホストに絡まれるよ。」

「別にいいじゃん〜。」

「ちゃんと11時までには帰りな。」

「ナツは心配性だな〜。あたしホストになんか全く興味ないし〜」






呑気にスマホをいじって適当に返事をする。



でも本当に帰さないと。このストリートは安全でも、ここ抜けると普通に繁華街なんだよ。



「もう…。」



俺はぶつくさ言いながらゆずなの隣に座った。




…ゆずながB スタにくるのは大体悩み事があるとき。(家関係か、もしくは学校のことか。)その時は俺が話を聞いてあげている。




「アイシャドウ変えた?」

「そうなの。新作のパレットが出てさ。お小遣い貯めて買ったの。」

「いいじゃん。」


そんなたわいもない話を毎回する。




「んで、今日はどうした?」



タイミングを図ってそう話しかける。ゆずなはスマホを置くと下を向いた。



「……ねえナツ。」




金髪の長い髪が揺れる。





「ガッコー行き始めたの?」



そういえば、ゆずなにはまだしっかり話していなかったな。



「あーうん。」

「なんで?あんなに嫌がってたのに?」



ゆずなは雰囲気に馴染めなくて学校に行っていない。だから俺は同じ気持ちを共にできる唯一の理解者なのだろう。





「なんでだろうな。」

「教えてよ〜!」


腕をぶんぶん振られる。



「いでででで!そんなに強く振るな、腕もげる。」



ゆずなはまだ幼さがあって喜怒哀楽が激しい。でも構って欲しいときは遠慮なく甘えてくる。俺にとって妹みたいな子だ。



とりあえず俺から手を離させて、


「やってみたいことが見つかったから」


そう言った。それからとゆずなはピタッと止まって「やってみたいことって?」と不思議そうに聞いてきた。



「教えない。」

「いじわる!」


不機嫌そうに類を膨らます。


ありゃありゃ、このままじゃ機嫌損ねそうだな。話すか。



「一歩が怖くてずっと逃げてた。でも少しだけ頑張ったら、案外楽しい感じだった。学校で支えてくれた人がいたんだ。」



話しながら頭の中に色葉や涼たちの顔が浮かんだ。


「お友達?」

「仲間……かな。」




ゆずなは目を丸くした。




「へー。まさかナツの口から仲間って言葉が出るとは思わなかったよ。」

「まだ分かんないけど。」





分かんないんかいw と突っ込まれる。





「……一歩って怖い?」

「怖かった。普通の人からしたらどうってことないことかもだけど、めちゃくちゃ怖かった。」




バスに乗ること、教室に入ること、クラスメイトと話すこと、全てが高い壁だった。その壁を越えるのは…難しかった。





「私も頑張ったら、ナツみたいに変われるかな…?」