Dying music〜音楽を染め上げろ〜







その頃、



「なぁ、ナツ。今度この曲弾き語りしてくれないか?」


客がスマホから音源を流した。聞こえてきたのは、





「この曲何ですか?」





アップテンポで独特なリズム。

速い。歌っているのは人間じゃない。

機械みたいな音がする。




「これはな、ボカロっていうんだ。歌っているのは機械なんだよ。」



ボカロ…?


CMで流れているような曲じゃない。

うわ、このガチャガチャって音なんだ?

高低差が激しい....こんな高音誰が出るんだ?




初めての感覚、サウンドに心を奪われた。



「こっちはなんですか。」

 
原曲の下に出てきた動画を指さした。



「これは原曲を歌い手さんがカバーしたもの。ほら、ここに cover って書いてあるだろ。」

「歌い手?歌手じゃなくて?」


「どちらも歌を歌う人ことは一緒なんだけれど、活動形態に違いがあるかな。」






その人日はく、「歌手」はライブやCD、公演を舞台にしている。「歌い手」はインターネット上の動画サイトでコミュニティに向けて歌を届ける人と言われた。



曲を作って登校するボカロプロデューサー、略してボカロP、それをカバーする歌い手、音源を聞きやすいように調整するMIX師、イラストを提供する絵師。多くの人が関わって一曲の作品ができるのだ、と。



その時はまだ歌い手って地上波でも取り上げられることが少なかったから俺にとっては不思議な境地だった。



そこからネット界隈、とりわけ歌い手に興味を持ち始めた。テレビとかにはあまり取り上げられないダークな曲や少し歌詞が過激な曲、みんな自由に投稿する。



もちろん、原曲も大好きだ。ただ、歌い手さんの coverは歌う人によってアレンジがあったり、キーが異なっていたりと色々な人がいたから面白かった。




特にサクトさん。


一瞬でファンになった。





作る曲が中毒性抜群で耳から離れない。この人の表現力は段違いだ。息遣いからブレス、優しい声からかっこいい声まで変幻自在。違うテイストの曲を見事なまでに歌う。師匠の言っていた「感情」を乗せるってこういうことかと納得した。



あるとき思った。



誰もがクリエイターに、表現者になることができるネット世界。







…ここなら、たくさんの人に聞いてもらえるんじゃないか。




ステージに立って歌うこともできる。でも、ネットを介した方が老若男女問わず、日本人以外にもたくさんの人に聞いてもらえると思った。



「師匠、俺歌い手の活動を始めたい。」