「颯太!お前体調悪いって言ってたのに、部活出て大丈夫なのかよ!?」
「ん、もうへーき!」

静かな保健室で寝ていると、頭の中をユズキヒナコに占領されてしまいそうだった。

5月の爽やかな風を身体中で受けながらヘトヘトになるまで走り込んでみれば、頭の中も少しはスッキリするんじゃないかと思った。

陸上部のジャージに着替えて外に出れば、日差しの眩しさにモヤモヤしていた気持ちが少しは晴れた気がした。

心地良い疲労を感じつつ友達となんでもないことを喋っていた時だった。

「・・・が、落ちたらしいよ」
ーーピーポーピーポーピーーポーー

なんだ??
みんな、そわそわして学校裏の・・川の方へ向かって行く・・・何かあったのか??

「何?、川でなんかあったの??」
「颯太!大変だ!杉本が川に落ちたんだよ!!参宮橋の上から!!」


━━━!?


橋の上から・・・落ちた・・?

頭を殴られた様な、物凄い衝撃を感じた気がした。
身体がガクガクと震えて、立っていることがやっとだった。


僕が見た記憶にない思い出の中で、ユズキヒナコは参宮橋の上から川の中へ落ちて死んだ。
杉本は昼休み中に、ヒナコのことを・・・ヒナコが川に落ちて死んでしまったことを話していたんじゃないか・・


学校の裏を流れる大きな川の河川敷へ向かって、救急車やパトカーのサイレンが鳴り響く中を、多くの生徒や近所の住人達が野次馬へと向かう中、僕も友人に引っ張られる様に向かう。
足取りは奴隷の様に重々しくて、気分の悪さから何度も嘔吐きそうになった。


河川敷にたどり着くと、人垣の間からずぶ濡れの杉本が担架に乗せられて心臓マッサージを受けている様子がチラリと見えた。

青白い杉本が応急救護を受ける脇で、昼休みの時に生返事をしていた戸塚が、泣きじゃくりながら消防と警察に事情を話しているのが聞こえた。

「欄干の手摺の向こう側に・・ヒック・帽子が落ちて・・それを取ろうとして・・・ヒック・・滑ってしまって・・・それで・・」

━━━!
「颯太どうした?」

戸塚の後ろに、白いワンピースを着た小さな女の子の姿が見えた
その瞬間、僕は込み上げる嘔吐感に耐えられず、その場に吐いた。

「大丈夫かよ颯太!?お前、今日絶対変だぞ?ちゃんと病院行けよ〜」

友達の声がどこか遠くに聞こえる、意識が朦朧とする中、耳元で女の子の笑い声が聞こえた。


フフフ・・フフ・・