成美達が暮らす南町も、小さな都会のような場所だった。

小中高近いが、小学校だけクラス替えがなかった。

小学校の入学式、成美はソワソワしていた。

翔の姿が見つからなかった。

(しょうちゃんどこだろ…)



「じゃあ、みんなーセンセイにちゅーもーく!!」

担任らしき先生が手を挙げて笑った。

「全員いるかなー?にんずう、を確認したいから、ペアの6年生、お兄さんお姉さんとちゃんと手を繋いでねー」

成美のペアは、【のぞみ】という女の子だった。

「おねーさんおねーさん」

人見知りという性格ではなかった成美は、のぞみの服の袖を引っ張った。

「ん、どうしたの?成美ちゃん」

「僕のお友達がいない!男の子!しょうちゃんっていうの!」

のぞみは成美の『僕の』という言葉に驚いていたが、すぐに納得したように

「じゃあセンセイに伝えてくるね、待っててくれる?それとも一緒に行く?」

と尋ねてくれた。

多分、子供の世話にも慣れている優等生だろう。

周りのクラスメイト達を助けている姿も多く見かけた。

「一緒に行く!」

成美はそう答えて、大きく頷いた。

のぞみも優しく笑って、頷いてから成美の手を引いた。

「センセイ。」

振り返った先生にのぞみが話している。

まだ背の高さが大きく違うため、話の内容がまだ聞こえない。

少し、チラッと先生に見られた後、

「成美ちゃん、その子の名前は?」

と聞かれた。

「しょうちゃん!るかわ しょう!」

心配したように跳ねながら答えた。

「わかった。もう一度玄関行ってくるわ、のぞみさん、皆まとめられる?」

先生のハッキリした声を聞いて、自分の手の先にあるのぞみの顔を見た。

「はい。」

かっこよかった。

小さい入学生だから、歳上がかっこよく見えるのは当然かもしれない。

でも、その時の成美は、もっと違うかっこよさを感じていた。

(私も頼られたい)

そんな目標が、この時出来ていた。

そんな事を考えていると、先生が成美の方を見ていた。

「?」という顔をしていると、

「成美ちゃん、教えてくれてありがとう」

と微笑んでくれた。

「うん!」とまたひとつ大きく頷いてのぞみと元の位置に戻って行った。


もうすぐ入学式が始まる時間だ。

「まだ来ないねー」

のぞみも翔を心配していた。

他の1年生と6年生のペア達は、のぞみのおかげで静かに並んでいた。

その様子を見た成美は、何気に聞きたくなったことがあった。

「おねーさん。」

「どうしたの?」

「おねーさんは、おにーさんおねーさんの中で1番エラい人なの?」

目を開いて成美の質問に驚いていた。

その後のぞみは、また笑って「偉いというか…」と続けた。

「学級委員って分かるかな?」

「がっきゅーいーん?」

成美が初めて聞いた言葉だった。

成美には兄が1人いる。

3歳差の兄だった。

だが、兄からその言葉を聞いたことは無かった。

頭のいい方では無かったから、無縁だったのだろう。

「そう。学級委員っていうのは…なんていうのかな、クラスをまとめる人」

「おねーさんみたいだね!」

「うん。私は学級委員なの。センセイが居ない時や、代表を選ぶ時とかね?ほとんどは学級委員が行うんだよ」

それを聞いた成美は、学級委員になりたい、と思った。

成美の目標は、全てのぞみから来たものだった。

「僕、おねーさんみたいになるね!」

「ふふっ、頑張ってね!」

フワフワした会話を広げている最中に先生が成美の元へ走ってきた。

「あ、センセイだ」

ポツリと呟くと、のぞみも先生の方を振り返った。

「成美ちゃん!おいで」

のぞみの手から成美を離し、今度は先生が引っ張っていった。