呆れながら成美も香織から目線を外し、前を見た。

人通りが多い大通りに出ると、1人の男の人に目を奪われた。

黒いズボンに白いゆったりとしたTシャツ。

何処かで売ってそうな腕時計を確認しながら立ち止まり、また進んだ。

「ねぇ香織、あの人かっこいいよ」

コソッと小声で声をかけると、「うーん?」と、うなりながら男性を見た。

「ホントだ。服装もいいじゃん。ナンパして来れば?」

茶化すように笑ってくる香織に「やめてよ」と肘で突き放した。

すぐ近くまで来たので、話を一旦やめ、横目で見た。

顔も涼しい顔をしていて、翔によく似ていた。

香織と同じように辺りを見回しながら歩いている。

(今の翔ちゃんはどんな感じなんだろ…)

小さい頃の翔を思い出しながら、男性を見送った。

(逢いたいなぁ…)

ふとそんな気持ちが頭をよぎった。


香織がスマートフォンを操作しながら迷っている。

「なにしてんの?」

「ねぇここどこー!?」

「は!?」

方向音痴なのに、自分一人で進もうとするからこうなる。

5分前に「大丈夫?」と声をかけたばかりなのに…

「ちょっと貸して」

スマートフォンを奪い取り、位置を確認すると…

「香織…!喫茶店から2キロ離れてるよ!?いくら方向音痴でもひどすぎるよ!」

「嘘!?反対側に歩いてたってこと…?」

2人で肩を落として立ち止まってしまった。


3分後…

未だに絶望的だった2人は俯いたままだった。

バイクの音が鳴り、香織と成美は顔を上げた。

バイクは成美達の目の前で止まり、運転手が声をかけてきた。

(イケメンさん…)

イケメンにすぐ反応してしまう成美の癖を口に出さないように抑えながら、運転手を見つめた。

「君ら、ここで何しとんの?この辺は何もないで。」

水口のような関西弁だ。

(関西の人…?なんでここに…)

成美が色々と頭の中で困惑すると、ここはしっかりしている香織が返事をした。

「私が方向音痴なせいで、友達と向かっていた喫茶店から2キロも離れてしまって…」

「2キロ!!結構な方向音痴やなぁ」

「ははは」と笑って、何か思いついたように成美達を見つめた。

「…?」

「ほな、俺のバイク乗ってかへんか?2人乗り用のバイクやから、3人乗っても支障はないと思うで!」

親指を立てて白い歯をみせ笑った。

「え、いいんですか!?」

成美が尋ねると、大きく頷いてくれた。

ここは警察も少ないし、見回りもほとんどない。

捕まることもないだろう。

「良かった…ありがとうございます!ほら香織、やったね!」

「…あ、うん!ありがとうございます」

暫く運転手を見つめていたのが成美にはわかった。

(え、香織…水口先生の次は他人?関西人好きなの…)

遠巻きに引いていると、香織が「な、なに?」というふうに見てきた。

「香織、あんた関西の人好きなの…?」

「は!?」

小声で伝えると大声が返ってきた。

バイクに3人乗れるか確認していた運転手がバッと振り返った。

「だ、大丈夫か?ヘルメットは心配せんでええよ!?」

「あ、だ、大丈夫です!すいません…」

ぺこりと頭を下げて、香織の方に振り返ると、話が続けられた。

「待って、私が他人を好きになると思う?」

「教師に惚れてるから可能性はあるかと。」

「あ、まぁそれはね…って、偏見!」

咄嗟にツッコミを入れられて苦笑いするしか無かった。

「ただ服よ…」

香織に言われて運転手を見ると、さっきの男性のようにモデルのような人だ。

「……納得」

香織はブランド等に細かいため、よく見ていたのだろう。

顔も結構いいと思うのだが…。


「あんたらどこ行くん?」

運転手に声をかけられビクッとした。

「あ、喫茶店です…!新しく出来た…」

名前も記憶していなくて、焦りながらも香織は答えてくれた。

「あぁ、駅前通りの近くやな!俺もちょうど行こう思ってん。」

それなら安心だ。

見るからに誘拐しそうな人ではないし、行くつもりだったのなら迷惑にもならないだろう。



「OK、準備できたわ!ほれ、ヘルメット」

2人にヘルメットが投げ渡り、座席に乗ろうとした。

「2人ともちっこい体やし、3人なんて余裕やろ!」

笑いながら運転手はバイクにまたがった。

その頭にヘルメットはない。

「あ、あの…貴方はヘルメット要らないんですか?」

「え?…あぁ、バイク初めてやろ?怪我でもしたら大変やん。俺は男やから。レディーファーストってやつや!」

赤の他人なのに、優しくしてくれた。

「なんや、申し訳なさそうな顔すんなや。俺は慣れとる」

ニコッと優しく笑って、エンジンをかけた。

成美と香織もまたがり、バイクは進み始めた。

「よっしゃ行くでーー!!」

運転手の声が人のいない住宅街に響いた。