成美達南高の生徒は春休みに入った。

たまに香織の家によってありさに

「翔ちゃんに電話出来る?」

尋ねてみるものの、出てくるのは咲のみ。

どうやら事情で忙しいようだった。

「何してるの?」と聞いても、

『さぁ、なんでしょう?』

しか返事が来ない。



「あーあーつまんないの。」

ベッドに横になりながら、携帯を操作する。

日中特に予定がない成美は、勉強でもして暇を潰していた。

「……課題も終わったんだよなぁ」

元々秀才に近いので、課題は直ぐに終わってしまった。

(春休みなんて、好きな人に逢えないから嫌い。)

最も、好きな人はずっと遠くにいるんだけれど…。

「ゲームでもしーようっと」

ベッドから降り、勉強机の椅子に座った。

毎日開いているアプリを開き、悩む。

自分のキャラで遊んだり、話したり出来るが、2ヶ月はお気に入りの服と顔で過ごすと決めたのだ。

なので変な動きは出来ない。

「ワールドマップ全部回ったしなぁ」

春休みになると好きなゲームでさえもつまらなくなってしまうのだろうか…

ただ、外へ出ても友達や恋人と出かけてる人ばかりだ。

あの中に1人で歩いていれば、相当目立つだろう。

「あっ、そういえば…」

確か、最近追加された【グループトーク】という項目があった気がする。

この【グループトーク】とは、自分で人を募集したり、誰か募集している人のトークに入ることが出来る。

「皆どういうの出してるんだろう…」

『オススメ』と書かれた水色のボタンを押し、スクロールする。

だが、そんなに面白そうなものは見つからなかった。

『雑談しよう』

『○○グループ好きな人ー』

等のものしか無かった。

今度は、ハッシュタグ欄を見た。

すると…

「……#恋愛 …?」

恋愛相談などをしたい人がいるのだろうか。

軽い気持ちでポチッとオレンジ色の枠にあるハッシュタグを押した。

『ゲーム内の彼氏募集!』

『カレボ中だよー』

『彼女欲しいー』

……。

「げっ、ゲーム内の…カレシィィィイイイ!?」

驚きの声を上げた途端、何故か同じように膝も上がり机にぶつけてしまった。

「いっっっったぁぁああい!!!」

痛いがために叫び声をあげると1階の母の声が聞こえた。

「成美ー?だーいじょうぶー?」

「…いたた…大丈夫ー…!」

母に返事を返して、膝を擦りながら姿勢を直した。

「…ゲーム内の彼氏って…いわゆるネットで知り合った彼氏…てこと?」

まだスマートフォンをもって1年だ。

ネットの彼氏なんてわからない。

知らないことはすぐ調べる。

それが成美の醍醐味だ。

すぐに検索アプリを開いて【ネット 彼氏 とは】なんて調べてみる。

「えーっと…」

1番上にでてきた物をタップして見てみるものの…

『ネッカレ ネットで出来た彼氏 実際に会ったことがなくても彼氏となる。』

イマイチ意味がわからない。

これはネットの彼氏だが、成美が見たのは【ゲーム内】の彼氏だ。

「気になるぅぅぅぅ!!」

机に顔を突っ伏していると、ピコンと通知が来た。

「誰よ、10時に…」

名前を確認すると、【香織】と記されていた。

「香織…?」

急にどうしたものかと、メールをチェックしてみた。

『成美、今…昼夜、暇?』

一瞬中国語かと思うように、漢字だけの文だった。

『暇だけど、どうしたの?』

文字を打って送信すると、まるでその返事を確信していたみたいにすぐ返ってきた。

『私も暇なの。ねぇ、一緒にお昼食べがてら出かけようよ。帰りはいつでもいいからさ!』

成美は『いいよ、着替えて迎えに行くよ』そう言って電源を切った。

ずっと座ったり寝たりしてたので体が硬い。

手を組んで上にあげ、伸びをした。

「んーっ…あ。香織って同じゲームしてたっけ。」

もしかしたら香織なら分かるかもしれない

解決方法が見つかってバッと立ちあがると
椅子が足に押されて後ろのベッドの方へ飛んで行った。

そのままぶつかるとカラカラ回転しながら成美へ戻ってきた。

足に椅子がコツンと当たり、やっと停止した。

「よし、急がないと。」

急いでクローゼットを開けて着替えを出した。


「あれ、成美どこ行くの?」

玄関で靴を履いていると母に声をかけられた。

「あ、香織と出かけてくるよ。帰り時間制限とかある?」

「何時でもいいわよ。夕飯は?」

都会だから電気が沢山付いている。

よく建物と街灯に娘を預けられるな、と度々考える。

「とりあえず、いいや。早めに終わったら買ってくるし。」

「わかった、楽しんできてね」

微笑んだ優しい顔に笑い返して、扉を開けた。



ピンポーン

家のインターホンを押すと同士に香織がでてきた。

「うわっ、ビックリした。って、出てくるの早くない!?」

「玄関で待機中だったからね」

上品に笑って「行こっか」と手を引いてくれた。



交差点を曲がりながら香織と話をする。

「ねぇ、どこ行くの?」

「んー、最近見つけた喫茶店にする?」

「決めてなかったの!?」

「えへへ」と笑って辺りを見回し始めた。