あれからというもの、香織は水口を追っかけ回していた。

国語の授業が水口なので、香織の唯一の幸福の時間だった。

予定に国語と記されていない時、香織は重だるい雰囲気を漂わせていた。

「水口先生!」

成美が振り返ると、B組の教室に香織が入ってきていた。

(またかい…)

成美は苦笑している。

確か今日は、A組の授業に国語は入っていなかった。

香織は、その日に限り、疑われない程度に書き取りを忘れてきている。

(多分、わざとなんだけどね…)

「書き取り忘れちゃって…」

(ほらね)

書き取りを忘れると、水口に言いに行かなければならない。

そこでまず水口と話すことが出来る。

(香織、水口先生と一日に3回は話すことが目標だしね。)

さらに、B組以外は授業でしか水口と接することが出来ないため、休み時間を使って1対1で書き取りをする。

その、1対1のためにわざわざ成績を落としてまで宿題をやっていない。

「あの度胸はどっから来るんだか。」

そんな事を口に出していても心の中ではあのように人を追いかけたいと思っている。

翔を好きになってからというもの、成美は他の人達に目が行かなくなってしまった。

元々顔が美人な成美も、中学一年までの人生で既に10人以上に告白をされている。

先輩、後輩、クラスメイト構わず告白されるが、

「ごめんなさい、私にはまだ忘れられない人が…」

と毎回断っている。

その度に男子達はもっと成美を追い詰める。

「そ、その人は誰ですか!?まだ好きなんですか?何年間?新しい恋を探した方が…」

等々……

成美は優しい性格だけれど、少しはさすがに腹が立つだろう。

しかも毎回このような人となると…

「私にはあの人しかいないの。」

苦しいながらもキッパリと断るしか無かった。

多くの女子達に、「男子もてあそび過ぎ!」と言われるが、成美だって遊びたくて遊んでる訳では無い。

周りの人達にはうんざりモードが入っている。

(だから空気が読めない人は嫌いなの…!)

「え、2ページ一緒に?」

成美の心の声に香織が遮ってきた。

「そう。明日の分だよ、最近香織忘れるじゃん?今度から忘れる時は俺と2ページやろう。昼休みの時間も増えてるし」

水口は1人納得しながら話している。

「え、そ、それって2ページ出来なかったら…」

「昼休み全部使うよ。それでも出来なかったら放課後残れ」

普通の人だったら落胆する所を、香りは大きい声で「はいっ!」と答えている。

水口が微笑んで教室を出た瞬間、香織は蕩けたような顔をした。

そして、成美を見てVサインを作った。

白い歯を見せて二っと笑っている。

「ふふっ、良かったねぇ」