ア フ タ ー グ ロ ウ


「いまはもう乗れるよ」

「当たり前」


あのころのリオはやさしかったのに、いつからこんな生意気になったんだっけ。昔は『ユナちゃん』って呼んでくれていたのに、いつからか呼び捨てになって。

時の流れは早すぎて、わたしはいつも置いていかれそうになる。唯一変わらないことなんて、わたしがリオの横顔がすきなことと、リオの癖だろう。ほかにもきっとあるはずなのに、いま思い浮かぶのはそれだけだ。



瞼を閉じた。そうしてゆっくりと深呼吸をした。
風が吹いて髪が靡く。きっと、胸元のリボンも揺れている。

二月も今日で終わりを迎えて、あと数時間後には三月に入る。

冬のにおいがした。それと同時に、微かだけど春のにおいもしたような気がした。

ゆっくりと目を開ければ、やっぱりさっきとはちがう景色。あたりは暗くて、三日月が不安定に揺れて。


首元に下げたカメラを手に取って、三日月にピントを合わせる。シャッターを切ろうと指に力を込めた、そのとき。



「あのさ、」

隣で口を開いた彼を、ファインダー越しに見つめた。

「……リオ?」

レンズを通して見る彼の瞳は揺らめいていて。思わずカメラを下ろした。きっと、揺れていたはずなのに、わたしと彼を隔てていたカメラを取っ払うと、そこにはいつものリオがいた。


「……やっぱいーや。なんでもない」

開きかけた唇が閉じ、少しの間を置いて吐き出されたのは、そんな言葉だった。