「……なに?」
ひっそりと見ていたつもりなのに、視線がばち、と絡み合った。その拍子に、目にかかるくらいの黒髪がサラリと揺れて。訝しげな視線を浴びせてきたリオに、ううん、と慌てて首を横に振る。
「なんでもないよ」
こんなこと、ぜったいおしえてあげない。
だって、すぐに調子乗るから。これはわたしだけのひみつなんだ。
「……そ、」
興味なさげに返事をしたリオは、人差し指で鼻の頭をさする。そんなリオから視線を外して、今度は町全体を見渡した。
「ねえ、覚えてる?」
突然声を発したわたしに、ん?と彼は首を傾げた。
「一緒に遊園地行ったこと」
「あー、覚えてる」
「観覧車、懐かしいね」
高層ビルもタワーマンションもないこのちいさな町で、いちばん高い建物はあの観覧車だった。
海辺沿いにあるそれを指さすと、ああ、と隣でリオが頷く。
「ユナが乗りたいって駄々こねてたよな」
「うん、」
「なのに頂上に着いた途端、こわいって泣き叫んで」
「ふふっ、よく覚えてるね」
「あれは一生忘れないって」
答え合わせをするかのように、古い記憶をなぞる。
微かにわらいを孕んで断言したリオに、その当時のことを思い出す。



