「あー、リオと離れるのかあ」
何気なくぽつりと放った言葉。
それは、水の張られた容器に一滴の絵の具が落とされたように、あたりに広がった。
「なに、俺と離れたくないの?」
揶揄うような声色に、「そんなこと言ってない!」とムキになって返せば、おかしそうに笑われた。なんだか気に食わなくて軽く睨んでみるも、痛くも痒くもないらしい彼は、まだへらりとわらってる。
離れたくない、とかそんなんじゃない。
ただ、ちょっと寂しいだけだ。
生まれたときから今日まで18年間ずっと一緒にいて、当たり前のように隣で過ごしてきた。その、リオがいた日常が日常じゃなくなってしまうことに、ほんの少し寂しさを感じるだけ。
「寝坊してももう起こしてあげられないからね」
「わかってるよ」
「ほんとにー? リオすぐに単位落としそう」
「おまえバカにしてんだろ」
その言葉とともに軽く頭を小突かれる。
「暴力はだめだよ」と両手で頭を押さえれば、「大袈裟だ」って横目で見られた。
どこか遠くを眺めているリオの横顔を盗み見る。
すこし長い睫毛に、すう、と通った鼻筋、シャープなフェイスライン。
そういえば昔からリオの横顔好きだったよなあ。



