「ユナが忘れたくねーって思ってる限りは忘れないんじゃねえの」
こころの中に引っかかっていたものが、するりと解けたような。
少しずつ心が軽くなっていく、そんな感じがした。
リオはふい、と視線を逸らして、それから鼻の頭を触った。
そんな姿に耐えきれず「ふふっ、」と声に出してわらえば、「なに」と怪訝な視線を向けられる。
「べっつにー? なんにもないよっ」
「……変なやつ」
その言葉は聞こえないふりをした。べつに、変なやつでもいいもん。わたしの心は広いから、特別にゆるしてあげるんだ。
ふと顔を上げれば、夕日が半分沈んでいた。昼間はあんなに高くあった太陽も、もう眠りについてしまうらしい。
ちら、と隣を盗み見る。それからリオと同じようにフェンスに腕を乗っけてそのまた上に顎を乗せた。
「きれいだね」
「だな」
ほんとうは、きれい、のひとことでは言い表せない。だけど、まだ未熟なわたしたちは、その代わりになるような言葉を知らない。
茜色の空を覆うようにして辺りがだんだんと暗さを帯びる。群青色に染まり移る目の前の景色。いつもだったらすぐにカメラを手に取って写真に収めるのに、このときだけはなぜだか目に焼き付けておきたいって、そうおもった。



