まだまだあるんだよ。席替えで一番前の席になりませんように、って願ったこと。四限目の授業が終わったらダッシュで購買に向かったこと。夏休みに暑い教室で補習させられたこと。休み時間に響き渡る友達の笑い声なんかも。

いいこともわるいことも、空気とか雰囲気とか、そういうの、ぜんぶ。


「いつかはわすれちゃうのかな」


オレンジ色に染まった校舎。三年間、ここで過ごしてきた。

目を閉じればいつだって思い出せる。もちろん、いいことばかりな三年間ではなかった。休みたいな、早く卒業したいなって思ったこともある。でも、時間とともに記憶も遠ざかって、いつかそんな感情を抱いたことさえ忘れちゃうのかと思うと。そしたらちょっと悲しくなった。

高校を卒業して、みんな別々の道に進んで大人になって。そうしたら高校の三年間なんて、あってなかったようなもので。



「さあ。俺にはわかんねーや」

数秒の沈黙の後に吐き出された言葉は呆気ないものだった。

そうだよね、と薄く口を開けようとして、「でも、」と言葉を重ねた彼に、ゆっくりと視線を向けた。


先程と同じように両腕をフェンスに乗っけたまま、顔だけをこちらに向けているリオと視線がぶつかる。その双眼はまっすぐにわたしを射抜いていて、わたしも逸らすことなくただただ見つめ返す。