「……」

廊下を走って幻影に近づくと、僕は魔法筆を振り下ろした。幻影は消えてくけど、いつもならあるはずの幻影を生み出す本はなかった。

……紫恩が戦ってる幻影を倒さないと、元の世界には帰れないみたいだね……早く浄化して、紫恩のところへ戻ろう。

そう思いながら、僕は先生に背を向ける。先生に背を向けたまま、口を開いた。

「……先生。僕と紫恩のことは、心配しなくても大丈夫です。皆の近くに、いてください……」

それだけ言って、僕は走り出す。この校舎内に何匹の幻影がいるのか、分からない。でも、ここまで強く幻影の感情を感じるんだ。結構な数はいると思う。

僕は校舎内を走って、見かけた幻影を浄化していった。

「……もう大丈夫かな」

どれだけの幻影を浄化したか分からないけど、さっきまで満ちていたはずの感情を感じないし、幻影の姿が見えないから全部浄化出来たはず。

「……ん?」

廊下を歩いてると、微かに物が壊れる音が聞こえてきて僕は立ち止まる。それとほぼ同時に聞こえるのは誰かの悲鳴。

「……まだ、いる……」

僕は、そう呟いて走り出した。幻影がいたのは、学年全員が入ることの出来る講義室だった。

人と獣の姿が混ざったような形をした幻影は、皆を襲おうとしている。僕は床を強く蹴って跳ぶと、魔法筆を振りかぶった。