「……駄目だよ。1人になったら、紫恩……壊れちゃうよ?」

「……」

僕の言葉に、紫恩は何も言わなくなる。

「壊れても良い。きっと僕を必要としてくれる人なんて……」

僕は、無言で紫恩を抱き締めた。

「え……?」

「僕は、何があっても紫恩から離れない。紫恩が必要だから……『何色にも染まれなかった』っていう本に、こんな文章があるんだ……」

僕は紫恩を抱き締める力を強くして、口を開く。

「僕の心は、黒色に染まってしまった。それと同じように、君の心も黒色で塗り潰されていたなんて……君を失ってから、初めて気が付いた……気付いてあげられなくて、ごめんね……」

「……」

「どうして、僕は失ってから気付いたんだろう。君が大切な人だってことに……彼が生きてるうちに、僕の心に色を付けてくれたみたいに……」

「……君の心にも色を付けたかったんだ、に続くの?」

紫恩の言葉に、僕は「うん」と返した。紫恩の表情は見えないけど、苦しそうにしてることは雰囲気で分かった。

「僕は、主人公のように誰かを失いたくない。生きてるうちに、誰かを救いたいんだ……」

僕の目から、涙が零れる。紫恩は「僕は……」と小さい声で言った。

「……僕は、小さい頃から孤独だった。毎日のように詩や小説を書いてて……先生から何度も注意されたんだ。授業中も書いてたから……」