見渡す限り海は船で埋まっていた。

 国は上陸してくる兵士たちを追い返した。

 次から次へと兵士たちは上陸してきた。

 はじめは数隻の舟を海岸に乗り付けて、一隻当たり8人づつ上陸してきた。

 やがて数十隻の舟を横並びに岸につけ一度に多くの兵士たちを送り込んで来た。

 「そろそろ限界ね」

 丘の上から様子を見ていた私たち一族は、大伯母の一言を合図に着物の懐から扇子を取り出した。

 「いいかい。わたしの真似をして」

 私たちは大伯母の真似をして扇子を全方に突きだし地面と平行に扇子を開いた。


 「要から覗き込み、あの船を扇面に乗せて」

 
 六人の女一族は大伯母に従った。

 「将軍!!合図して」

 私たちを丘に運んで来た将軍はひとつゴクンと唾を飲み込み一拍おいて号令をかけた。

 「お願いする!!幕府は正式に命令する!!敵国船から我が国を守ること!!」

 大伯母はにやりとして

 「すまないね。将軍様。正式に要請してくれないと後で知らんぷりされた過去があったからねえ」

 よし!と気合いを入れ直し、大伯母は扇子で大きく円を描き舞いだした。

 私たちは目を見開いて固唾を飲んだ。

 大伯母がひとつ舞うと、風が吹き出し大波が数万の敵船の一角、数十隻の船を消した。

 正方形の海面が数万の船群の中に見えた。

 わたしと年齢の近いいとこの杏と目を合わせ、私たちも大伯母について舞いだした。

 次々に大群の船の中に海面が見えだした。

 六人が舞っているが船が消えるのは3ヶ所だった。

 叔母が言うにはだれもが力を発揮できるわけではない。

 一族全員で舞うのは、誰が敵の船を攻撃したのか特定させないためだという。

 国の頭が代わると国のためにしたことが一転、謀反とされ捕らえられるかもしれないらしい。

 私たちはいっときか半時か無心に舞った。

 下の海岸の警備部隊がいつしか棒立ちになり一角一角消えていく敵船敵舟を見つめていた。

 沖の船が旋回して逃げ始めた。

 私たちの傍らにやはり茫然と立ち尽くしていた将軍が我に返った。

 「終了!!あなた方はすぐ部下と一緒に隠れ家へ」

 
 将軍は部下が耳打ちした。

 ひとりの部下が

 「神風だ神風が吹いたあ」

 と叫びながら海へ下っていく。

 わたしと杏は取りつかれたようにまだ踊っていた。

 荒れた波は静寂を取り戻し
 
 海の鳥たちは海面から飛び出した音符をくわえた。

 鳥たちはそれぞれに一回転宙返り上下降を繰り返し、

 ひとつの唄のように一斉に鳴き出した。

 ○○○○
 
 の

 ×××××××××

 の

 歌が

 もういなくなった船たちに

 別れを

 告げた。