通学の電車が滑り込んで来た。

 昨日見た映画で話が弾んでいた。

 私たちは仲良し3人組。

 電車は比較的空いている。

 あだ名は禁止されていたので、学校では決められた法則に基づいた仮名で呼び合うのが流行っていた。

 それぞれの名字の初めの漢字の音読みに、男子は夫を付け、女子は子を付けて呼ぶ。

 電車に乗り込んで真ん中辺りで私たち3人組は立っている。

 「あはははは」「それでそれで」

 話の中心にはいつもトン子がいて、てん子がはやし立てる。

 「び子はどうなの」

 てん子が私に聞いてきたのでいつものように低音の声色で答えようとしたとき、電車がガタンと揺れて動き出した。

 進行方向に向いていた私は、後ろに倒れそうになり、無意識に両手で空気をかきまわし体重を前に移動した。  
 
 瞬間、電車が減速して、今度は前のめりに2、3歩進んで転けそうになった。

 
 「び子!!」

 私は思わず、両手で誰かの腕をつかんで倒れるのを防いだ。

 前のめりの私が顔を上げると会社員がほほえんでいた。

 「あんな。元気なんはええわい。そやけどな……」

 (大阪弁?)

 「そやけど、お年寄りとか身体の不自由な人も乗ってはるかもしれんねやで。頭のすみにおいときや。な」

 私は頷いて「はい」と小さな声で返事した。

 からだは硬直して動かない。初めての生大阪弁だった。

 「ほな、はよ友だちのとこ行き」

 私は、はっとしてつかまっていた手を離しボーッとしたままトン子とてん子のもとに戻った。

 うしろから「ほな、たのむでえ」

 と

 トン子の「どうしたの?」

 と

 てん子の「大丈夫?」

 と

 私のはつ恋の大阪弁が

 音符となり

 おどりだしスキップをふんだとき

 ○○○○

 の

 ××××××××

 の歌が

 私の胸をノックした。

 何回も

 何回も

 私の胸をノックした。