ヤバい事になっちゃった。

 カナがあたしの胸ぐらを締め上げてくる。

 「ばかとはどう言うことよ!!蛍子!!」

 あたしは黙っていた。

 仲の良い友だちと思っていた。

 「どう言うことなのよ。答えなさいよ。蛍子」

 カナは両腕で胸ぐらをつかんだままあたしを揺らした。


 いつもの会話の流れだった。

 バカだねカナはいつも

 と言ったとたんカナに胸ぐらをつかまれた。

 慣れ過ぎてしまった。

 妹にしか言わない言葉だった。

 あんなにSNS では言葉に気を付けていたのに。

 つい気軽に言ってしまった。


 万事休す。誰も止めに入ってくれない。

 あたしが口をつぐんだままでいると、五時限目のチャイムが鳴った。

 みんな席につきカナもあたしから手を離し席についた。

 あたしも何も無かったように席につき教科書を出そうと机の中を覗いた。

 暗い机の中に怒った眼が光っていた。

 あたしが「まあまあ」となだめたとき机の中の眼から涙がひとしずくこぼれた。

 「あたしが悪いのよ。こころ許し過ぎた。家族みたいに相づち打っちゃた」

 机の中の眼が閉じた。

 「気を付けなくっちゃ」と小さくつぶやいた。

 その時、教室じゅうの机から音符が溢れだした。

 やがて音符は天井を舞い

 ○○○○
 
 の

 ×××××××××××

 を

 奏で

 今日、カナといつものように一緒に帰ろうね

 とあたしを促した。

 音符は、あたしの歌の音符なのか、それともカナの歌の音符なのか。

 いや教室にいるみんなの音符かもしれない。

 あたしはさらに口を真一文字につぐんだ。

 もう気にしない。

 気に……

 みんな……
 
 みんなも……。