待って、ねぇ、それって。

「……まっ、」
「好きだ」

 言葉を遮られて、はくり、無駄に動いた唇が空気を食べた。

「……悪ぃけど、諦められねぇんだわ」

 ぱちり。
 瞬けば、目尻からこめかみへ、私の目玉にまとわりついていたそれが流れ落ちる。
 嘘つくな。
 そう言いたいのに、言えない。言いたく、ない。

「……何……言って、」

 やめろ。期待するな。信じるな。
 暴れ狂う心臓を諭すように、脳内も騒がしくなる。
 
「だから、なぁ、戸津井」

 名前を呼ばれるのと同時に、彼の親指によって、優しく拭われた目尻。
 壊れ物を扱うかのように触れてきたその指も、頬を包むように添えられた手のひらも、私は拒まなければいけないのに、身体は全く動かない。

「お前が、諦めて」

 同じく親指になぞられた、下唇。
 近付いてくる、彼の顔。
 これから起こるであろうこと。それに対し、私がすべきこと、しなければならないこと。頭ではちゃんと分かっているのに、伏すためにおりて来ているまぶた以外、やっぱり身体は動かなかった。