何が、いけなかったのだろう。思考するも、心当たりしかない。
 何が、なんて。初っ端からいけないことだらけだ。泥酔していたあいつを強引に連れ帰って、思考回路がバグっているのをいいことに首を縦にふらせた。「合意だ」とあいつにも罪を負わせた。共犯にした。

「…………ん、で?」
「え?」
「てめぇ何でついてきてんだ? 俺は帰るっつったろ」
「えぇ~いいじゃないですかぁ~」

 鬱陶しい。
 そう吐き捨てて後輩を引き剥がし、「もう帰ります」と万札を飲んでない上司に渡した。考えごとをするには最適だなと歩いて帰ることにしたら、何故か香水くさい女にあとをつけられている。

「私、染谷さんのこと、結構いいなぁって思ってて」

 くねり。骨がないのかと思うような奇っ怪な動きをしたそいつは確か、酔っ払っい後輩の同期だ。名前は、知らん。

「よくねぇわ。ついてくんな」

 眉根を寄せ、不快感を(あらわ)にする。はっきりと拒絶を吐き捨てて、歩き始めれば、たたたっと軽快な足音が鼓膜に響いた。

「染谷さ……あ、匡さん。って、呼んでいいですか?」
「よくねぇわ。呼ぶな。何しれっと隣に並んでんだ。気色悪ぃな」
「匡さん。匡さんって、今、フリー……ですよね?」
「……」
「結婚もしてないし、恋人もいないですよね?」

 だったら、何だと言うのか。
 こっちの話を一切聞かないこの女に何を言っても無駄だろう。応答する価値もない女の言葉を鼓膜から鼓膜へ受け流して、ただただ無心に足を動かす。

「あ! 待ってくださいよぉ!」

 それなりに人のいる駅前。どうにか撒けねぇかなと画策していれば、ひときわ高い声を吐き出したそいつは、俺の腕へと絡み付き、脂肪の塊をそこへ押し付けてきた。

「っ、」
「あ、」

 瞬間、すれ違うように前から歩いてきた人と肩がぶつかった。