ため息を吐く。
 ありえない。
 何がありえないって。浮気自体もちろんありえないことだけど、その相手がもっとありえなかった。

「……別によくねぇか。中学んときは俺のこと好きだったろ?」
「……ええ、ええ。フラれましたけどね、私」
「……」
「んでもってそんなもん、とっくの昔に過去なんですよ。ええ、ええ。今は彼氏だけなんですよ。そのはずだったの! なのに! なのに……っ!」
「……」
「はぁ、もう、ほんと、くそ……最悪」

 両手で顔を覆い、また、ため息を吐く。
 喧嘩して、泥酔して、浮気して。ああ、本当に。最低最悪だ。どうしよう。いや、とりあえず帰宅だろ。
 自問自答を終え、顔から手を離して、きょろりと辺りを見回す。シンプルな部屋。それが第一印象だったここはおそらく、隣で携帯をいじっている男の家なのだろう。ラブなホテルではない。生活感がありすぎるから。
 まんまと持ち帰られたのか。さぞかしチョロかったことだろう。ああっ! くそっ!

「あ?」
「は?」
「何。帰んの?」

 いやもちろん、己にだって非はある。だから別に、目くじら立てて怒ったりはしない。したいけど、しない。心の平穏を一刻も早く取り戻すためにも早々にお(いとま)させてもらおう。
 そう決意してベッドとしか思えないそこから降りようとすれば、空気を読まない男がひとり。
 あああ殴りたい。

「たりめぇだろくそカス」
「口が悪いなお前」

 思いっきり舌をうち、己の衣服を探した。