視界いっぱいに広がる景色は、私を現実から隔離してくれた。

「おい、昼飯行くぞ」
「え」
「そろそろ食っとかねぇと晩飯に響くだろ」
「お腹すいてな」
「俺は減ってる。貸し切りなんだから飯食う時間くらいあってもいいだろ」
「……」
「な?」
「……分かった」

 あれに乗りたい。あれが観たい。あれがしたい。
 子供かと自嘲できるくらい、きゃいきゃいとはしゃいで、染谷をつれ回した自覚はある。ずっと来てみたかったのもあるのだろうけれど、とにかく楽しくて、面白くて、ずっと、この時間が続けばいいとすら願った。

「お、悪ぃ。仕事の電話。俺のも適当に注文してて」
「ん」

 レストランに入り、席に案内され、テーブルの上でメニューを広げたところで、染谷の携帯が音を奏でた。手で謝るような仕草をしながら席を立った彼を見送って、言われた通り適当にオーダーをしてから、バックをあさる。
 そういえばここについてから、一度も携帯を見ていないな。
 そんな、今さらなことを思いながら携帯を見れば、着信ありのポップアップが視界を占める。どくり、心臓が大袈裟に揺れた。
 いやまさか。
 脳裏に浮かんだ名前と顔をすぐに否定して、ゆっくりと息を吐いた。
 別れて、二ヶ月経つ。だから彼ではない。彼だけは、ありえない。多分、美羽だ。今日のことを知っているからからかい半分でかけてきたのだろう。もしくは、彼と別れたことを母親には話しているから母親かもしれない。先週も心配そうに電話をしてきたから。あるいは、仕事の急ぎの要件か。
 きっと、そのどれかだろう。
 着信元が会社だったらかけ直さなきゃなのかと若干面倒に感じつつ、ディスプレイをタップして履歴を開いた。

「……っ」

 瞬間、ひゅる、と息が逆流した。