私は冷蔵庫からビールを取り出すと、中に入っているタッパに気付く。

あ。昨日残したから冷蔵庫に入れておいたんだ。


……山本先生の手作り。


蓋を開けて、それを温めると私はビールと共に流し込んだ。


くそう、本当に料理だけはうまいわ。


完食してビールも飲み干した私は、少しだけいい気分。
よし、今のいい気分の内にタッパ返しに行くか。


ずっと家にあるのも微妙だしな。


私はタッパを洗うと、拭いてから手に持って玄関へと向かう。

サンダルを履くと、ガチャリと扉を開けた。
それから、隣の406号室の扉の前へと立つ。


一度、インターホンを押す。

ピンポンと中で音が聞こえた。
それから、トントンとこっちに近付く足音。



「ハイ」


ガチャリと扉を少しだけ開けてから、顔を覗かせる山本先生。
私が立ってるのを見て、相当面食らってるご様子。



「……え、と?」

「あ。コレ、タッパ洗っておいたから。
ご馳走様でした」

「ああ、わざわざどうも。
って、え!? もう帰るの!?」


用は済んだ。もうここにいる必要がない。
だから、私は笑顔ではいっと頷く。


「ちょっと待って。さっき、料理作ったんだけど」


何、料理で釣るつもり?
じとっと横目で見るけど、部屋の中から漂って来るいい香り。