「安西ちゃん、おはよ」


叩いた相手は辻先生だ。
コーヒー片手に、ニッコリ笑顔を見せると椅子に座ってこっちに体を向ける。


あああ、何だ。
もう、辻先生の顔を見ただけで泣きそうだ。

今すぐ辻先生にすべてを話したい。今すぐ抱き締めて泣きたい。
とんでもなく迷惑がられるだろうけど。


「……何、その顔。また見たいテレビ見逃したの?」


相当酷い顔をしていたのかもしれない。
テレビじゃないんです。テレビじゃ。

てか、テレビだったらどんなによかったか。


これは現実ですよ、リアルで、現実。



「辻先生。今日、飲みに行きましょう」

「おお? 珍しいね、安西ちゃんからとか」

「思いっ切り飲みたい気分なんです」

「ふうん? じゃあ、行こうか。今日も練習あるんでしょ?」

「はい」

「んじゃ、その後ね」

「はいっ」



飲みに行ける。
それだけでテンションが上がった。


さっきとは打って変わって、私の気持ちは晴れやかだ。


結局単純、簡単なのだ。私は。