ポロン、と最後の音が鳴り響いて、久住君は手を鍵盤から離すと私の顔を覗き込む。
「こんな感じです」
「………す」
「す?」
「すっごい! 久住君、これ弾くの初めてだよね⁉
凄い! 思わず聞き入っちゃったよ! 凄過ぎる!」
手をぱちぱちとさせて、私は久住君を褒めまくる。
驚いた、凄いよ。久住君。
こんな才能があったなんて。
今まで知らなかった。
うわあ、こりゃ本当に先生として教えて貰わないとだ。
まだ感動していると、久住君は何故か俯き口元を手で隠していた。
「……どうかした?」
そう声をかけると、久住君はえっ?と顔を上げる。
その顔は仄かに紅い。
「どうした? 顔、赤くない?」
「いや、だ、大丈夫です。ほら、それよりやりましょうよ」
「そう?」
「そうです!」
少し不思議に思いながら、一から弾いてと言われて言われた通りに弾いて行く。
ここはこうだ、と何度も指摘されながら、一つずつ間違いを修正する。
どうにか、形になった時にはもう結構な時間が経っていた。



