月島と呼ばれた少女は本をそっと閉じ――それはそれはもう、深いため息をついた。なるべく優しい口調を心がけたつもり、だった。



「蓮見くんタイミング悪すぎです」

「容赦ないな」

「これでも抑えた方ですが、何か文句でもあるのでしょうか」



一度(ひとたび)溺愛した本が絡めば、冷静さが失われてしまう電光石火の如く。それでもこの少年――蓮見常葉(はすみときわ)は何処吹く風で、そしていつの間にか隣に座っている。こっちが何を言っても動じないため、結果少女が折れることになるのだが。



こういう日に限って、図書館に訪れる人がいないのはもう常識だろうか。



「ちなみに狐面さんは留守ですよ」

「今日は?」

「常連さんと温泉です」

「相変わらずだなあの人」




静かな空間にふたりだけの声が響く。