「俺は諦めようかな。元カノのこと」
さっきまで笑っていた冬木は目を伏せてしまう。
「俺さ、元カノにフラれたんだよね」
「なんで……ですか?」
「俺が結婚しようって言ったから」
「え?」
「普通さ、プロポーズしたら喜ぶじゃん? でもあいつ結婚するつもりなかったんだって」
「…………」
「仕事が好きだから結婚して子供産んでキャリアを失うのは嫌だって。結構な大手勤めだったからさ。俺はその気になるまで待つって言ったんだけど、待たれるのもプレッシャーで重たいんだって。お互い将来の価値観が違うと辛いじゃん?」
どう言葉をかけるべきか分からず黙って聞いていた。
「だからさ、元カノをいい加減忘れたいんだけどね……」
冬木が黙ってグラスに口をつける様子を見ていた。
たくさんの女性と付き合っても納得のいく相手じゃない。そう思っているのだろう。
分からなくもない。俺だって冬木と同じ気持ちで紗枝と付き合った。
「俺のことを好いてくれてる子と付き合うのがいいのかもね」
冬木が誰のことを言っているのが分かったから思わず睨みつけた。
「日野っていい子だよね」
「薫はだめだ」
すぐさま低い声で牽制する。
「薫は俺の彼女です」
「別れたんでしょ?」
「俺は……納得してないです……」
薫が俺のことを嫌いでも、それでも俺はまだ気持ちの整理ができていない。
「ほんと、夏城くんは諦めが悪いんだね」
冬木はなぜか安心したような顔をする。
「日野ってさ、同僚に告白されたことあるんだよ」
「え?」
「社員旅行中にさ。ああいうのって修学旅行みたく気持ちが盛り上がったりするだろ? でも日野は断ったんだよ。俺は付き合ってみればいいだろって言ったら、あいつなんて言ったと思う?」



