「俺も夏城くんと一緒。元カノが忘れられなくて何年もまともな恋愛ができないの」
「……お、俺はマッチングアプリは使いません……」
やっと言葉を出すと冬木はまた笑う。
「まともな恋愛ができないってことは否定しないんだね」
図星だったから否定しようとも思わなかった。
冬木と同レベルだと思われていることは癪だけれど。
「まー、俺が適当すぎるんだろうね。元カノを引きずりすぎて、ここ数年ちゃんと彼女できないもん」
「さっきの女性とはどうだったんですか?」
「猫好きだって言うから無理」
「は?」
「俺猫アレルギーだから。あの人家に猫3匹いるんだって。それは無理かなー。あの人の服に毛がついてたのか、さっきも近づいただけで目が痒くて」
グラスを空にした冬木は店員にまたビールを注文する。
「雰囲気は好きだったけどね。胸も大きかったし。けど勢いでセックスしたら鼻水止まらなそうかなって思ったら無理。夏城くんが通りかかってよかったよー。どう逃げようか困ってたから」
冬木に対するイメージが変わった。薫を通した冬木はここまで本音を話す人ではなかった。
「日野には内緒にしてね。こんな俺を尊敬してくれてるから。あの子の前では良い先輩でいたいし」
「ああ……はい……」
言われなくても言うつもりはない。
本当の冬木を知ったら薫だってイメージが崩れてショックかもしれない。
「その後日野とはうまくいってる?」
「…………」
答えたくなくて黙ると冬木は「ストーカーしてるくらいだから君は日野のこと好きだよね」と言うから顔が熱くなる。
「ストーカーじゃありません! 彼氏です!」
そう言ってからもう『彼氏』ではないかもしれないと思って自分の言った言葉に落ち込む。



