「薫の言ってることが理解できない。戻って話をしよう。紗枝はすぐ追い出すから」
「もういいよ。今まで全部氷室さんと考えたことなんでしょ? 私をからかって面白がってる」
「そんなわけないだろ!」
「だっておかしいじゃん! 蒼くんが私なんかを好きになるはずないもん!」
「え?」
「罰ゲームを本気にした私がそんなに面白かった? それなのにまた付き合おうって言ってくるとか酷いよね」
「っ……」
蒼くんは息を呑んだ。
「何度も傷つけないで。好きなんて嘘つかないでよ」
「嘘じゃないよ……」
「じゃあどうして氷室さんが来たの? この間も電話があったよね」
「それは……紗枝が別れようって言ったことに納得してなくて……」
「それって別れてないってことじゃん」
「違う! 俺はもう紗枝に気持ちはないんだ! あいつがいつまでも俺から離れないんだ!」
「酷い言い方」
低い声でそう言うと蒼くんの目が潤んだように見えた。
「蒼くんっていつも一方的なんだね。自分の言葉で相手がどう思うかなんて深く考えてない」
「違う……」
「私との恋人ごっこは蒼くんにとっては遊びかもしれないけど、私は傷を抉られるようで辛かった」
「俺は恋人ごっこなんて思ってないよ!」
「嘘の告白はもうこりごり。香菜と翔くんの式で追いかけてきてくれた時、そんなことじゃないかなって思ったんだ」
蒼くんは増々傷ついたような顔をする。
「薫の被害妄想だよ!」
「被害妄想?」
衝撃だった。蒼くんと再会してまた付き合おうって言ったら疑うに決まっている。私に向けられる言葉も態度も裏があるんじゃないかって不安に思うことが被害妄想なのだろうか。



