「うん。明日も仕事だし」
「そう……」
「お邪魔しました」
玄関に行くと見送ろうと蒼くんもついてくる。
靴を履こうとすると後ろから急に抱きしめられた。
「蒼くん?」
「あのさ……今日泊っていかない?」
「え?」
振り返ろうと顔を後ろに向けると額に蒼くんの唇が振れる。愛おしむようにキスをされて体が動かなくなる。
「まだ薫と離れたくない」
耳元で囁かれて蒼くんと触れている背中から徐々に体が熱くなる気がする。
「今夜は泊ってほしい」
「でも……着替えとかないし……」
「下着ならコンビニに買いに行く。服は薫が着れそうな俺のを貸す」
蒼くんの腕に力が入った。声は私を引き留めようと必死だ。
「嫌……かな? 俺は薫ともっと関係を深めたい」
本気なのだろうか。私を泊めるってことは一緒に寝るわけで、関係を深めるとはつまりセックスしたいってことだ。
気持ちのないキスはできても、そこまで考えているとは思わなかった。
「薫を傷つけるようなことはしないし……もし嫌ならくっついてるだけでもいいから。できるだけ長い時間いてほしい」
こんなこと6年前に言ってくれていたらどんなに良かっただろう。今更言われても、ひねくれてしまった私は素直に喜べないどころか戸惑ってしまう。
誕生日も記念日も蔑ろにされた。今更求めてこられても「はいそうですか」なんて応じられない。
蒼くんと体を重ねるなんて無理だ。全部をさらけ出すには信用できない。
「帰ります……」
「そっか……うん。わかった」
蒼くんは寂しそうな声を出しながらゆっくりと私の体を解放する。
体を反転させて蒼くんと向かい合うと私は「ごめんなさい……」と呟いた。
「謝らないで。俺の方こそ困らせてごめんね……」



